就職難が叫ばれて久しい。今年の就職戦線は、2月1日現在の大学生の就職内定率が81.7%で前年をわずかに上回ったものの、依然として過去最低レベルだった。
とはいえ「就職難」には数字のマジックがある。確かに大学生の内定率は平成に入ってからの不況につられて、デコボコはあるにせよ徐々に下がってきた。
では、バブル最盛期だった平成元年と現在を比べて、大学生の就職口は「狭き門」になったのかというと、実はそうではない。平成元年に大学を卒業して就職した者は約30万人で、ここ数年はこの数字が33万人前後である。特に平成19~21年には38万~39万人に増えており、むしろ好景気の時代より今のほうが「広き門」なのである。
ただし、その間に大学進学率は約25%から約51%へと倍増し、大学卒業者数も約38万人から約55万人へと1.4倍に増えたため、内定「数」は増えても内定「率」は下がったというわけである。
ちなみに今年22歳の全人口は約130万人で、平成元年のそれは約180万人だったので、「同年代の中で大学を出て就職する者の割合」ということで言えば、今年は約25%、平成元年は約17%ということになる。数のうえでも確率のうえでも、当時のほうが「大卒就職者」は珍しい存在だったのだ。
今では一流大学(多くの場合は東大)を指す言葉のように誤解されている「最高学府」は、もともと「大学」を意味する。かつては企業や社会でリーダーとなるべきエリートを養成する役割を担っていた大学が、いまや国民の半分が通う“半義務教育”のような存在になった。
しかし、その卒業生が急増するほどには企業や社会が彼らを求めていないため、国民の学歴が底上げされていることに見合った求人がないというのが今日の就職難の本当の姿なのである。
大学生が、求人のある中小企業や現場労働に就きたがらないことを「雇用のミスマッチ」と呼び、ともすればそれは若者たちのわがままと捉えられているが、彼らの視点に立てば、それならば大学に通うのではなく、もっと早く社会に出たほうが良かったではないかという気持ちが起きるのも致し方ないかもしれない。
※SAPIO2013年5月号