大学生が知っておくべきことは、最初の就職で自分の「天職」に就けるとは限らない、ということだ。しかも、人気企業は優秀な人間が大勢入ってくるので入社後の競争率が高く、出世が難しい。大前研一氏が解説する。
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今の若手社員は「草食系男子」などと呼ばれていた世代で、新入社員は「ゆとり教育」を受けた世代である。それが影響しているのかどうかは定かでないが、今の30代には「トップ(社長)だけはやりたくない」という社員が非常に多い。なぜか?
かつての日本は給料のピークが55歳だったが、現在は42歳になり、その後は頭打ちになるか下がってしまうにもかかわらず、仕事が増えて責任も重くなっていく。それで疲弊している先輩や上司を見ていると「ああはなりたくないな」と思い、出世するよりも現場にいて責任もとらず、そこそこの給料をもらっているほうが気楽でいい、と考えるようになっているからだ。
自己評価が高く、運さえ良ければ出世できると思っているバブル期を謳歌した50代社員とは対照的である。
私が大学生にアドバイスしたいのは、最初の就職で自分の「天職」に就けるとは限らない、ということだ。しかも、それらの人気企業は優秀な人間が大勢入ってくるので入社後の競争率が高く、出世が難しい。仮に同期が1000人いるとすれば、役員に残るためには、まず1000分の1の競争に勝ち残らなければならない。さらにトップになれる確率は、社長の任期が5年の会社なら5000分の1、10年の会社なら1万分の1でしかないのである。
しかも、そういう会社は、業績を左右するような大きな仕事を自分の裁量で任せてもらうまでに入社後20年ぐらい我慢しなければならない、というケースも多い。その間に仕事や会社そのものがなくなってしまう可能性さえある。
とはいえ、そういう大手企業は社内教育システムや福利厚生などはしっかりしているだろうから、入社した場合は5年くらい仕事のやり方を学びながら「自分は本当は何をやりたいのか」ということを熟考すればよい。そして、違う会社で働きたい、もっと充実した仕事をしたい、今より稼げるようになりたいといった結論に達したら、それを実現するために、今の会社に勤め続けて給料をもらいながら一生懸命に勉強する。
その時に重要なのは、自分の「勝負期」と「勝負スキル」を決めることだ。つまり、ビジネスマンとしての価値を高めて「天職」に就くための勝負をかける時期を見極め、それに必要なスキルを磨くのである。
※週刊ポスト2013年4月19日号