<もしもあなたが誰かを本気で愛したら、行き着く先には悲しみがある。(中略)なぜなら、あなたの愛した者は死ぬ。必ず別れのときがやってくる。(中略)私にそのことを教えてくれたのは、一匹の猫だった>
そんなプロローグで始まる本書『九死一生』(小学館)には、たくさんの死が登場する。恋人、家族、そして愛猫の死…。その中である夫婦が体験する、愛するものの死を乗り越えていく過程が綴られる。著者の小手鞠(こでまり)るいさん(57才)はこう語る。
「小説に出てくる9匹の猫はすべて実在の猫がモデルになっているんです。仲良しの書店員さんの猫だったり、イラストレーターさんの飼い猫だったり。最後に冴子と悠紀夫が旅先で出会った猫は、実際に私たち夫婦が旅に出た先で出会った猫がモデルです。猫が紡いでいく夫婦の物語を、今回はじっくり書いてみたかったんです」
著者は猫好きで知られる。7年前に愛猫・プーちゃんの死に遭い、それを題材にした『猫の形をした幸福』(ポプラ社)もあるが、時を経て、もっと深い猫小説が書けるのではないかと考えて執筆したという。
タイトルの『九死一生』は、たまたま見つけたアメリカのキャットフードのブランド、『ナイン・ライブズ』からヒントを得た。ナイン・ライブズとは文字通り9つの命を指し、“猫は9回生まれ変わる”という言い伝えに由来しているのだと友人に教えられた。
「日本語にも“九死に一生を得る”という言葉があり、危ない目に遭いながらも助かるという意味ですよね。猫が9つの生を生きるというのと、九死に一生の言葉が私の中で結びついて、喪失感を背負いながらも生きてゆく主人公の夫婦にふさわしいと思い、タイトルにしました」
※女性セブン2013年4月25日号