トクホ(特定保健用食品)の先駆け『ヘルシア緑茶』の誕生から10年という節目となる今年、花王が新たに『ヘルシアコーヒー』を市場投入する。その市場規模7300億円。各社がしのぎを削る缶コーヒー業界に、大きな地殻変動が起きようとしている。
花王が4月4日に発売した『ヘルシアコーヒー』は、期せずして『ヘルシア緑茶』発売10周年と重なった。体脂肪を低減させるという『ヘルシア緑茶』は、年間売上1247億円にまで拡大したトクホ飲料市場開拓の立役者。この市場では昨年、トクホ初のコーラ飲料『メッツコーラ』が発売後11か月で1億7000万本を販売するなど、多くのヒット商品が生まれている。
その後はライバルから常に追われる立場だった『ヘルシア』陣営の切り札が『ヘルシアコーヒー』なのだが、ライバル出現に触発されての発売では決してない。なんと『ヘルシア緑茶』発売以前から開発に着手していたというのだ。
「コーヒーはお茶と並んで、日本人に最も親しまれている飲料のひとつ。日常的に飲めば健康を維持できる、という価値を加えることができたら、まさに理想の飲料。双方とも当初からなんとしても実現したかった商品です」
現在まで開発の指揮を執ったブランドマネジャー、小出敏治は「研究員の意地と藤の繰り返しでした」と感慨深げに語る。
同社が着目したのは、コーヒーとお茶の双方に共通して含まれるポリフェノール。コーヒー豆に多く含まれるポリフェノール「コーヒークロロゲン酸」には、抗酸化作用があるといわれてきた。
しかし、コーヒー豆を焙煎する際に発生する多様な化学変化は、コーヒー独特の味と香りを生みながらも、「コーヒークロロゲン酸」を大幅に減退させてしまうことも知られていた。
営利を度外視できる公的な研究機関さながらの地道な研究が続けられた。本来は民間企業が着手する研究ではないのかもしれない。しかし、それを厭わないのが花王の真骨頂。その地道で果敢な挑戦がこれまでも数多くの独創的なヒット商品を生み出してきた。
「中には研究が進まず、何度も再スタートを繰り返すあまり、くじけそうになった研究員もいました。それでも研究を継続できたのは『コーヒーを飲み続けて健康になれるなら凄い』という熱い思いだけが支えになったからです」
研究員が編み出した数々の方法から採用されたのは、コーヒーを抽出する際、特殊な方法で濾過し、「HHQ」だけを除去する「ナノトラップ製法」だった。この製法により、コーヒーの雑味の元となる酸化成分も取り除き、スッキリとした後味とコーヒーの心地よい苦味が楽しめる味わいまで実現できた。
■取材・構成/中沢雄二(文中敬称略)
※週刊ポスト2013年4月19日号