多くの企業で“人事の季節”を迎え、50万人以上の新入社員が誕生した。会社にとって人材は成長の源泉だが、日本企業に優秀なリーダーを育てる仕組みはあるのか。大前氏が、企業にとってもビジネスマン個人にとっても重要な「人事報酬制度」を解説する。
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ヤフージャパンが打ち出した「年収1億円」「TOEIC900点でボーナス100万円」「サバティカル制度」という新たな人事報酬制度が話題になっている。
簡単に説明すると、まず「年収1億円」は給与を評価次第で一気に2~3倍に、賞与も同じく最大2倍に増やせる仕組みにし、理論上、年収1億円超えを可能にした。「TOEIC900点でボーナス100万円」は990点満点のTOEICで900点以上を取れば100万円の一時金を支給する制度、「サバティカル制度」は一定年数ごとに半年程度の長期休暇を取得できる制度だ。
ここからは「海外で活躍できる人材を育ててグローバル企業になりたい」というヤフーの思惑が見てとれる。が、結論から言うと、そうした仕組みでは真のグローバル企業になることはできないし、ビジネスマン側の視点から考えても、このような制度が個々人の成長につながるとは思えない。
「サバティカル制度」や「TOEIC900点」は人事制度の本質ではない。そもそもサバティカル制度は、大学教授や研究所の研究者が見聞を広めたり、次の研究テーマを決めたりするためにできたもので、民間企業などそれ以外の領域では、アメリカでもうまく機能した例は聞かない。
まして日本企業は職能の評価がはっきりしておらず、あるポストにどんなスペックの人材が必要かがあいまいだ。長期休暇を取得したらその人のスペースはすぐに別の人で穴埋めされてしまうことになるから、サバティカル制度が定着するのは難しいだろう。
また、TOEIC900点以上の日本人はザラにいるが、ビジネスの現場で通用するレベルの人は稀である。たとえ通用したとしても、それと「世界企業と渡り合う」能力は別物なので、900点というだけで特別扱いするのは、いかがなものかと思う。
「年収1億円」も大いに疑問だ。ヤフーが大金を払ってもよいと考えている人材のスペックを具体的に書き出して世界中から募集すれば、おそらく年収1000万円でも応募が殺到するだろう。同じ1億円払うなら、日本人を1人だけ雇うより、そういう人材を10人集めたほうが、はるかに役に立つはずだ。
ヤフーは日本では優良企業だが、あえて日本人の中から人材を見つけてきて1億円払おうというのは、皮肉なことに同社がドメスティックな体質で「日本人でしか動かない会社」になっていることの証左だ。
※SAPIO2013年5月号