中国での今回の鳥インフルの発生は、いまのところ上海市とその周辺省市にとどまっている。いま医療関係者らが懸念するのは、2003年に起きたSARS(新型肺炎)や鳥インフルなどの新型ウイルスの発生地となってきた南部の広東省に波及し、一気に蔓延する事態だ。
『マスメディアが報じない 新型インフルエンザの真実』(中公新書ラクレ)の著者で医療ジャーナリストの外岡立人氏はこういう。
「広東省周辺はインフル拡大の要素が揃っている。コウモリやハクビシンなどの野生動物を食べる習慣があり、大量に育成している業者もいる。養鶏場もたくさんあり、市場では生きたまま鶏を売っている。鶏や野生動物と一緒に住んで濃厚に接触していると、ウイルスが変異して人間に感染しやすくなるのです」
養鶏業者のモラルの低さも問題で、政府が禁止している抗インフルエンザ薬を密かに不正に入手して鶏に投与する者も多く、薬剤耐性をもつ鳥インフル・ウイルスも誕生しているという。
鳥インフルが発生した養鶏場では、すべて殺処分するのが大原則だ。しかしこの地域では、感染して弱った鶏をベトナムやカンボジアなどへ密かに輸出したり、死んだ鶏を川に遺棄する悪質な業者が後を絶たない。
豚は鳥のインフルにもヒトのインフルにも感染しやすいため、ヒトにうつりやすいウイルスを生み出す可能性がある。そのため、多くのインフルエンザは鳥→豚→ヒトのルートで変異・感染する。
つまり、新型インフル発生時には豚についても厳重な衛生管理が必要とされるわけだが、悪質業者らが気にすることはない。この4月には、広東省仏山市の肉類加工会社の関係者が、ベトナムから未検疫の子豚を毎日6000頭以上も密輸していることを地元メディアに告発し、大騒動になった。どれほど新型ウイルスの拡大に無頓着であるかがわかる事例だ。
疫病研究者の間で“新型感染症のゆりかご”とも呼ばれるこの地域の衛生対策は、10年前のSARS(新型肺炎)大流行時から何も変わっていないのが現実だ。鳥インフルが広東省に波及すれば、パンデミック(感染爆発)の危険性は一気に拡大する。
※週刊ポスト2013年4月26日号