3月中旬に閉幕した全国人民代表大会(全人代=国会)で、習近平・党総書記は国家主席と国家中央軍事委員会主席に選出され、党、国家、軍の大権をすんなりと平和的に掌中に収めた。
この3大権を握った歴代指導者は、毛沢東を除くと、華国鋒、江沢民、胡錦濤の3人しかいない。
しかし、華国鋒への権力移譲は1976年の毛沢東の死去という異常事態のなかであり、江沢民も1989年の天安門事件による趙紫陽・総書記失脚などの政治的混乱が背景にあった。
胡錦濤はといえば、党総書記と国家主席に就任したものの、江沢民が軍事委主席に居座ったため、同主席への就任は2年間も待たなければならなかった。
習近平が“民主的”に3大権を一挙に掌中にしたというのは、1990年あまりの中国共産党の歴史からみても極めて希有の事態である。「奇跡的」という言葉を使っても不思議ではないと思うくらいだが、習近平がそれを成し遂げたのは、軍の支持を得ていたからにほかならない。
習近平は全人代期間中の3月11日、解放軍代表団全体会議に出席して、
「党の指揮を聞いて、強軍の魂をしっかり鋳造し、党が軍を指導するという根本原則と人民軍隊の根本的な宗旨を絶対に動揺させてはならない。部隊の絶対の忠誠や純粋性、信頼を確保し、一切の行動は党中央及び中央軍事委の指揮に従わなければならない」
と述べて、軍は党に服従すべしという1927年の軍創設以来の大原則を強調してみせた。言い換えると、「党の最高指導者である俺(習近平)の命令は絶対だ」というメッセージである。
■文/ウイリー・ラム(国際教養大学教授)
■翻訳・構成/相馬勝
※SAPIO2013年5月号