安倍首相が3月15日、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉参加を表明した。
オバマ大統領との会談で関税撤廃に聖域があることを確認し、「日本の『農』は守る」と宣言した上での参加表明だったが、農業界からは懸念・反対の声が強い。自民党ではコメ・麦などの重要品目の関税維持を最優先に交渉を進めるよう決議がまとめられた。
そうした重要品目の一つとして必ず挙げられるのがサトウキビだ。外国産品と3倍を超える価格差があるため、粗糖1kgあたり71.8円(328%相当)の関税が課されている。沖縄では畑の面積の約半分を占め、栽培農家は全体の70%にも及ぶ代表的な作物だ。
なぜ沖縄の農業はサトウキビ一色なのか? 亜熱帯の気候で収穫できる作物に制約があることも一因だが、ここにはカラクリがある。
サトウキビ1tあたりの売買価格は約6000円だが、それとは別に国の補助金で1tあたり約1万6000円を得られる仕組みになっている。離島の産業支援などを目的とするこの補助金によって、本来の価格の4倍近い収入が得られるのだ。
ただし、沖縄の「農家」が補助金で大きな儲けを出しているかというと、そうでもない。愛知県田原市で年商1億円超の農業生産法人・有限会社「新鮮組」を経営し、農業コンサルタントとして各地を飛び回る岡本重明氏の見立てはこうだ。
「肥料や農薬の代金を支払い、農業機械などのローン返済をすれば、農家自身の手元に残るのはわずか。一方、農家がサトウキビを作れば、農協にはマージンが入る。補助金の窓口から肥料・農薬・機械の購入や資金の借り入れまで、すべて農協経由になっているからです。農家は疲弊し、農協が栄える。大半の農家は農協に依存しているから、農協が得をする仕組みに異を唱えられない」
一部には、農協主導ではなく自立した農業を目指す人たちもいる。しかし、そうした農家は出荷などに際して、農協や周囲の農家から嫌がらせを受ける例もあるという。離島の生活を支援するはずの補助金が既得権化し、新たな試みに踏み出そうとする人を邪魔するのでは本末転倒もいいところだ。
岡本氏に言わせれば、沖縄の農業には様々な可能性がある。例えば、在日米軍や観光客向けにサラダ用の葉物野菜やマンゴーなどの果物を提供できる。地の利を活かして台湾や上海へ産品を輸出することも考えられる。にもかかわらず、農協と補助金の枠組みにとらわれているのが沖縄農業の現状だ。
■文/原英史(政策工房社長)
※SAPIO2013年5月号