3月末、米ボーイング社と世界の空を二分する欧州の航空機最大手・エアバス社のファブリス・ブレジエCEOが安倍晋三首相と会談した。ボーイング社の新型機B787が事故によって運航停止に追い込まれており、エアバスを売り込む絶好の機会となった。
日本の航空機市場は世界でも数少ない米国の独壇場で、現在、JALは機体の100%、ANAも88%をボーイングから購入している。各国の主なナショナルフラッグはリスク分散のためにどちらからも導入するケースが多い。ボーイングのお膝元・米国でも、ユナイテッド航空、デルタ航空などはエアバス機を保有している。日本は極めて特殊といっていい。
航空評論家の秀島一生氏がその理由を語る。
「エアバスは近年、急激にシェアを伸ばしているが、そこには利点がある。例えば、エアバスはどの機種もコクピットが似ているから、1つ免許があれば他の機種の免許も取りやすく、パイロットの訓練コストが安い。だから各社はリスク分散の意味でも2社から買う。
しかし、日本では日米安保を背景に民間機も戦闘機同様、いわば国策として米国から買ってきた。とくに政府系の特殊法人として発足したJALは自民党の影響力が強く、ボーイングが当然という体質で、日本の狭い国土には合わないジャンボ(B747)を100機以上も購入した。
エアバスが総2階建ての超大型機A380を売り込みにきたときには、JALもANAも見向きもせず、いち早く新型A380を導入したシンガポール航空に日本-シンガポール路線の客を奪われてしまったほどです」
何より、B787の事故が1社依存のリスクを物語っている。1月の事故以来、JALは減便による3か月間の損失が約11億円になる。
そのJALがついにエアバスに乗り換えるとなれば方針の大転換だ。同社は、「使用機材についてはあらゆる可能性を検討している」(広報部)とエアバス調達の可能性を否定しないが、背景には経営再建を担った同社の稲盛和夫・名誉会長の意向があるという。
「稲盛さんは、使用機材の調達先を分散してリスクを減らすべきだと主張してきた。安全性の問題解決が長引くなら、先にエアバス採用を決定した方がANAを出し抜くことができる。パイロット出身の植木義春・社長はじめ稲盛派の幹部にはエアバス導入論が強まっている」(JAL中堅幹部)
※週刊ポスト2013年4月26日号