北朝鮮が金正恩政権となって1年。長距離ミサイルを発射するのは確実とみられているなか、最前線にあるはずの韓国の様子を、産経新聞ソウル駐在特別記者の黒田勝弘氏がリポートする。
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金正恩政権の軍事優先政策を牽制するには、中国が戦略物資である石油の対北輸出をストップするのが一番効果がある。しかしそのカードは依然、「抜かずの宝刀」のままだ。
対北制裁でいまいち効果が上がらない背景には、中国のシリ抜けのほかもう1つ、韓国の脳天気ぶりがある。南北共同で操業している開城工業団地のことだ。韓国は対北政策での主導権確保を官民挙げて叫んでいながら、開城工業団地には手を触れようとしない。これは卑怯(?)というものだ。
開城工業団地はソウルの北方約70キロの北朝鮮領に2004年、韓国の経済協力事業として開設された。2012年末現在、韓国企業123社が北朝鮮労働者5万3450人を使って操業中だ。原材料や電力は韓国から送られ、北朝鮮労働者の出退勤用バス280台も韓国が提供している。
主に中小企業による雑貨生産で昨年の生産高は5億7000万ドル。生産高累計は約20億ドル。北朝鮮には賃金と社会保険料として年間約9000万ドル(労働者の月給は約130ドル)の外貨が流入している。金正恩政権にとっては貴重な外貨収入だ。
韓国は開城工業団地を北朝鮮社会に“南の風”を吹き込む窓口と位置付けている。北朝鮮を開放、改革に導くためのショーウインドウというわけだ。
工業団地の職場でおやつとして提供される韓国自慢のチョコパイを、北朝鮮労働者たちが食べずに持ち帰ることを韓国メディアは嬉々として伝えているが、事態はそう甘くない。
北朝鮮当局はむしろ韓国に対し、ことあるごとに「工業団地への韓国側要員(約800人)の出入り制限」を脅迫カードに使ってきた。むしろ韓国は足元を見られてきたのだ。
この際、韓国政府は対北制裁の独自策として「開城工業団地の操業中断・閉鎖!」を宣言してはどうか。被害を受ける韓国企業には政府が補償すればすむ。身を削る覚悟があってこそ北朝鮮との“戦い”に勝てる。
脅迫されてばかりではなく、たまには北朝鮮を脅迫するそれが念願の対北政策での主導権確保への第一歩である。
※SAPIO2013年5月号