中国で新型鳥インフルエンザウイルスの感染者が相次いで確認され、日に日に死亡者数が増えている。新しいワクチンの開発もこれからで、毒性の高さから不安が大きい。元小樽市保健所長でウイルスの最新事情に詳しい医学ジャーナリストの外岡立人氏が、危機的状況に警鐘を鳴らす。
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中国・上海市と安徽省で、少なくとも28人が鳥インフルエンザに感染し、9人が死亡したと伝えられた。これまで鳥どうしの感染しか確認されていなかったH7N9の鳥インフルエンザは、致死率が低い弱毒性とみられていたが、初めて人への感染が確認され、しかも毒性が高まっていることがわかった。
中国で新型ウイルスが生まれる背景には、まずウイルスが「変異しやすい環境」が挙げられる。
広東省を中心とする中国南部では、コウモリやハクビシン、ハリネズミなどの獣肉を食べる習慣があり、それらを大量に飼育している地域もある。それと近接した環境で鶏や豚を飼うことも多い。野生動物と家禽や家畜、人が濃厚に接触していると、3者の間でウイルスが行き来する間に突然変異して、より人に感染しやすくなったり、毒性が高まったりする。
それだけではない。中国では鶏のH5N1感染予防のため、政府が指導してワクチンが使用されている。ワクチンを鶏に投与すると、感染しても発病しない鶏が増え、そうした鶏から周辺にウイルスがまき散らされることで鳥インフルエンザが拡大する危険性が高くなる。そのため国際的には家禽へのワクチン投与が禁じられている。しかも中国で使われるワクチンは古いタイプの粗悪品が多いため、ワクチン耐性を持った変異ウイルスが頻繁に誕生している。
さらに農家は中国政府が禁止している抗インフルエンザ薬を不正に入手し鶏に与えていたため、薬剤耐性H5N1ウイルスが多く誕生してきた。これを政府は黙認してきたようだ。
最近、中国で展開している米ファストフードチェーンが過剰な抗生物質や成長促進剤を投与して成長を早めた「速成鶏」を使用していた事実が報じられた。中国では外資系企業まで家畜への薬剤乱用が常態化していることが窺える。
家畜業者のモラルは低い。鳥インフルエンザが発生した養鶏場ではすべて殺処分するのが原則だが、感染して弱った鶏をベトナムやカンボジアなどへ密輸する業者がおり、そこから海外へ感染が拡大している。
※SAPIO2013年5月号