50代を超えても30代に見えるドクター・南雲吉則先生が読者の健康に関する相談に答えるコーナー。今回は「丸ごと食」に関する相談に回答する。
【相談】
毎日、栄養バランスのいい献立を考えるのに苦労しています。魚や野菜、果物を丸ごと食べると体にいいといわれていますが、なぜですか? (エプロン・41才・主婦)
【回答】
美容と健康のために何を食べたらいいか、育ち盛りの子供に何を食べさせたらいいか、そんなことを考えると毎日の献立を考えるのもすごく大変だよね。1日30品目を食べるといいとか、5色のものを食べようともいわれているけれど、「毎日30品目そろえてよ」なんて家族に言われたら、思わずイラッとしちゃうよね(笑い)。
5色のものを食べようという食事法は、赤は肉や魚、にんじんなどの赤い野菜など、黄色は大豆製品など、緑は緑色野菜、白はご飯やうどんなどの穀類や淡色野菜など、黒は昆布やわかめ、きのこ類などを毎食食べようという方法なんだけど、これも少し面倒くさいよね。
そこで今日は、これまでにも何度か話してきた、栄養をバランスよく摂るいちばん簡単な方法、“丸ごと食”について詳しく話そう。
まず、なぜ丸ごと食が体にいいのかについて。ぼくたちの体は、体が必要としている栄養素すべてを摂らないと、うまく歯車が回らないんだ。
何かひとつの栄養素が足りないだけでもダメだし、逆に、何かひとつの栄養素だけをたくさん摂っても、多くは外に排出されてしまうか、ときには体内に蓄積して中毒を起こすこともあるからね。
つまり、栄養を摂る時に大切なのは“量”ではなくて、“バランス”なんだね。そこで体を作るすべての栄養素を摂るためにいちばん簡単な方法は、素材を丸ごと食べることなんだ。
ぼくたち人間や牛、豚や鶏など、ありとあらゆる生き物の祖先は魚なんだ。祖先である魚と、その子孫である動物は、体を構成している栄養素の種類やバランスがすべて一緒。だから、地球上の生き物を、“丸ごと一匹”食べるのがいちばん栄養バランスがいいんだ。
でも、牛や豚は丸ごと全部は食べられないよね。ヒレとかロースだけを食べるから、牛や豚は偏った栄養、つまり“部分栄養”なんだ。マグロなどの大型魚も一匹食べるのは無理だから部分栄養だね。
足りない栄養はサプリメントで補えばいいと思う人もいるかもしれないけれど、自然界には、サプリメントだけでは補えない未知の栄養素もたくさんあるからね。そこへいくと小さないわしやあじなどの魚は、頭も骨も丸ごと食べられるからおすすめだよ。
昔から、“江戸前の手一束”といって、江戸時代の天ぷら屋さんは、魚をつかんだときに手の幅からはみ出さないくらいの大きさの小魚しか使わなかったんだ。小型の魚を丸ごと食べることで、すべての栄養を体に取り込もうとした先人の健康法だよね。
もちろん、丸ごと食は小魚だけではない。野菜も同じで、葉ごと皮ごと根っこごと食べるといいね。例えば、ほうれんそうを食べるときに、根もとの部分を捨てていないかな? 実は根もとは、でんぷん質が多いから、水から炊くとでんぷん質が糖に分解されて、甘くておいしいんだよ。甘みは辛子に合うから、根もとは辛子和えがおすすめだね。
大根も捨てるところがない野菜。皮にはポリフェノールが入っていて、抗酸化作用、すなわち若返り作用があるんだ。傷をきれいに治す創傷治癒作用、病原菌の体内への侵入を防ぐ抗菌作用もあるから、健康にもいいんだよ。きんぴらにするとおいしいね。
そして大根の葉っぱは、ビタミンAやC、カルシウムを含んでいるから、塩でもんだり一晩干して味噌汁の具にするといいよ。昔の人は、干した大根の葉っぱを“干葉”(ひば)といって、冬場のビタミン源にしたんだよ。
※女性セブン2013年5月2日号