アベノミクスで株価が急上昇するなど日本経済には活気がもどりつつある。果たして、霞が関の官僚たちは「アベノミクスがもたらす日本の未来」を信じているのか。本誌伝統企画・官僚座談会の呼びかけに応じた、財務省中堅のA氏、経済産業省中堅のB氏、総務省のベテランC氏、厚生労働省から若手D氏の4人が本音をぶつけ合った。
●司会・レポート/武冨薫(ジャーナリスト)
──まずはこの点からうかがいたい。安倍首相は7年前に政権に就いたときとどう変わったか。
経産B:変わったとか、成長したとよくいわれるが、むしろ、あのときの失敗は二度と繰り返したくないという強烈なトラウマが残っていると感じる。アベノミクスの金融政策もその反動という面が大きいのではないか。
厚労D:私もあれほど露骨な財務省排除をやるとは驚きました。
経産B:総理は政権に復帰すると第1次安倍内閣時代の秘書官経験者たちを官邸の要職に呼び戻した。ところが、ただ1人、年次が一番上だった財務省出身の秘書官経験者、田中一穂・主税局長は呼ばれなかった。
財務A:主税局長を簡単に動かすわけにはいかない。
経産B:田中さんは総理就任前の安倍さんにどうしても会ってもらえず、元秘書官なのに私邸に夜討ちをかけて門前で待つというみっともないことまでやった。
厚労D:知る人ぞ知る“門前払い事件”ですね。
──第1次内閣当時の安倍首相は公務員制度改革に取り組み、財務省の天下り先だった政府系金融機関の統合を決めた。それで財務省の虎の尾を踏み、閣僚スキャンダルのリークが相次いで政権の統制が取れない「官邸崩壊」と呼ばれる状況に陥った。安倍総理は7年前の報復をやったのか?
経産B:単なる報復じゃないでしょう。民主党が政権を取ったとき、小沢一郎氏は、財務省から干されていたかつての腹心の斎藤次郎・元大蔵事務次官を閑職から日本郵政社長に復権させ、霞が関に「権力の所在」を誇示した。安倍総理も、「野田前首相のような操り人形にはならない」ということを示すためにわざと最初に財務省にガツンとやった。昔の安倍さんにはできなかった芸当ですよ。
財務A:誰の入れ知恵かね。
総務C:財務省内でも田中局長への視線は冷たいらしい。官僚の世界では、ひとたび秘書官として仕えた政治家に対しては、総理や大臣を辞めた後も、パイプを絶やさずに仕えるべしと教えられる。
財務省はそれを徹底していて、自民党の政権復帰が近づいた時、政界工作の司令塔を安倍さんの秘書官だった田中局長に変えたが、それが裏目に出た。日銀総裁人事を読み間違ったのはその後遺症だ。
経産B:財務省は麻生副総理から「組織を動かしたことのない人は日銀総裁には不向きだ」といわせて安倍総理に圧力を掛け、最後まで武藤敏郎・元次官の総裁起用に望みをかけていたからね。黒田東彦・総裁は財務省にすれば傍流で次官経験もない。
それが就任後最初の日銀政策決定会合で思い切った金融緩和を打ち出した。これまで何年も「為替介入」で円高対策に失敗してきた従来の財務省・日銀のやり方が真っ向から否定されたわけで、面白いはずがない。主計局の主流派は人事には不満があるが、安倍政権が来年4月に消費税を引き上げるまでは臥薪嘗胆、隠忍自重しておこうというのが本音だよ。
財務A:勝手なことを。黒田さんは真面目な人格者。財務官時代、外国の格付け会社が日本国債の格付けを引き下げた時は「日本の財政は健全」という反論文書を送りつけたほど行動力もある。腰の重かった日銀を動かしたのはさすがです。
※週刊ポスト2013年5月3・10日号