アベノミクスの景気浮揚策で金融緩和に続く「第二の矢」として次々と用意されている財政出動。その中に含まれているのが、サラリーマンが飲み食いなどに使う“接待交際費”の緩和だ。
これまで資本金1億円以下の中小企業は、年間600万円を上限に交際費の90%が必要経費に認められて税金がかからなかったが、今年度(3月決算企業は4月1日)から上限が800万円に拡大。しかも、全額経費OKとなった。
この緩和策により、財務省は350億円を超えるお金が新たに接待に使われ、街中の飲食店が活気づくと見ている。一方、1億円超の大企業についてはもともと経費計上が認められていないので、交際費はすべて税金の対象になる。そこで、大企業でも中小企業でも適用できるのが「5000円基準」である。税理士の落合孝裕氏が解説する。
「会食に1人でも社外の人がいれば、1人あたり5000円までの飲食代は会議費として計上でき、飲食費から除かれます。つまり会議費にしてしまえば全額経費となるのです。また、会議で出されるお酒については意外にゆるい取り扱いになっているので、多少のお酒ならば飲んでも問題ありません」
国税職員が書いた法人税の解説書『措置法通逐条解説』(財経詳報社)にもこうある。
<会議終了後、お茶代わりにビール1~2杯程度を提供しても会議費から外れるのかどうかという疑問が生じる。しかしながら、そのようなシビアな解釈をするのは不合理であり、「通常供与される昼食の程度を超えない飲食物等の接待」に要する費用については会議費として取り扱うこととされている>
こうしてみると、「5000円以内なら居酒屋で宴会をしてもバレないし、そもそもビールを飲んでも税務署に睨まれない」と思う人も多いだろうが、そう甘くはない。
「『昼食の程度を超えない飲食物』、つまり会議は昼間に行うことが想定されているのです。よく芸能人が税務署に睨まれるのもこの部分。連日の“夜の会議”は、ただ飲んでいるだけじゃないかと疑われてしまいます」(前出・落合税理士)
さらに、こんな声も聞こえてくる。
「国税が企業の税務調査に入ると、5000円以下の会議費を重点的に見ます。本当に会議の実態があったかどうかや、社外の人の氏名、参加人数を細かくチェックして、場合によっては使った店にレシートの提出を求めるなどしています」(国税関係者)
また、会議が行われる場所も気をつけなければならない。前述の解説書では、<都合によって外部の食堂やレストランへ出掛けたからといって取り扱いが異なるものではない>としつつも、<会議終了後、席を代えて行う懇親会の費用とか、料理店に株主等を集めて行う決算事情説明会の費用等については交際費等とされる>との記述がある。
「食堂やレストランはOKで料理店はダメということは、ファミレスなら『会議費』で寿司屋や小料理屋なら『交際費』ということになります。少なくとも大人数が囲んで座れ、会議をしてもおかしくない場所で行う必要があります」(落合税理士)
確かにファミレスならば夜であっても会議っぽく見えるし、言い訳もきく。だが、問題の本質は金額や場所ではなく、どこまでが会議の範疇に入るのかということだろう。
落合税理士は「会議の議事録など内容が分かる書類を残し、社内の管理文書としてもあったほうがいい」と指南する。しかし、そこまで厳密に管理するとなれば、接待でカネがバンバン使われると見込むアベノミクスの思惑が、画餅に帰す可能性もあるだろう。