地震学者の島村英紀氏は「日本列島の地下は東日本大震災で大きな歪みが生じている。大地震がいつ、どこを直撃してもおかしくない」と警告する。
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日本の地震予知研究がスタートして半世紀になる。1965年、国家プロジェクトに格上げされ、巨額の予算がつくようになった。東大などの旧帝大や官庁が競うように観測網を全国に張り巡らせ、前兆現象を捉えようとした。しかし前兆がなく地震が発生するケースや、もっともらしい前兆が記録されたのに地震が起きないケースが次々に出現。結局、予知に成功した例は1回もなかった。
地震予知が無力であることを世に知らしめたのが、1995年の阪神・淡路大震災だった。M7.3、死者6400名超の大地震を一切警告できなかった。その年、日本の地震予知研究の元締めだった政府の「地震予知推進本部」が突然、「地震調査研究推進本部」に名称変更する。「予知」の看板を下ろし、新たな活動の柱にしたのが「地震の確率」と「活断層の調査」だった。
たとえば、琵琶湖の西岸に沿って走る活断層である琵琶湖西岸断層帯での地震発生確率は30年以内に0.09~9%とされた。しかし30年以内という予測期間は長すぎるし、上限値から下限値まで100倍も幅がある。予測というにはお粗末すぎる。
また阪神・淡路大震災以後の直下型地震は、すべてノーマークだった。2000年の鳥取県西部地震、2004年の新潟県中越地震、2005年の福岡県西方沖地震、2007年の能登半島地震などは、すべて活断層が見つかっていない場所で起きている。
東日本大震災で牡鹿半島が5.3メートル、関東でも地盤が20~30センチ、太平洋側にずれた。10センチずれるだけでも大変な歪みが生じるのに、それよりはるかに大きな歪みが日本列島の地下に生じた。
地下に歪みが生じると、プレート境界で起きる海溝型地震の周期が早まる可能性がある。元禄関東地震は1703年、関東地震(関東大震災)は約200年後の1923年だった。次は今から100年先といわれていたのだが、地下が大きく変化したことで、早まる可能性が高まった。
東海、東南海、南海の3地震が連動する南海トラフ巨大地震も同様である。東日本大震災では南北450キロメートル、東西150キロメートルの岩盤が滑った。南海トラフの長さは約600キロメートルあり、東日本大震災の震源域より長い。地震が発するエネルギーの規模は震源域の長さや滑った距離に応じて大きくなる。東日本大震災を超える巨大地震になることは十分ありうる。
一方、ゲリラのようにあちこちに出没する内陸直下型地震は予測がより困難で、1万年に1回といわれる大地震がどこで起きても不思議はない。2008年の岩手・宮城内陸地震では4022ガルという観測史上最高の加速度の揺れを記録した。原発の原子炉は450~600ガルに耐える設計になっているが、それをはるかに上回る数値が現に記録されており、原発事故が繰り返されない保証はない。
日本人は地震予知は不可能という前提に立って防災意識を高めていくしかない。
※SAPIO2013年5月号