歩きスマホの危険性に注目が集まっている。スマホや携帯の利用実態を調査する筑波大学の徳田克己教授(バリアフリー論)が2007年に行なった調査では、70歳以上の高齢者が「衝突」もしくは「衝突しそうになった」相手の47%が携帯を使用していた。車椅子利用者の場合では、この数字は50%を超える。
車椅子利用者の一人は、こう訴える。
「スマホを見ながら歩いている人が、前から向かってくるとドキッとします。こちらは素早い動きもできないし、避けることが難しい。車椅子は固いのでぶつかった人も怪我をします。私も怪我をしたくはないし、それ以上に誰も傷つけたくないんです」
この調査では他にも、幼児を連れた母親の42%が、携帯を使用している人と「実際にぶつかった」と答えている。
徳田氏が警鐘を鳴らす。
「歩きスマホは歩道の『動くバリア』。その被害者は高齢者や障害者、幼児です。特に高齢者は、ぶつかって転倒すると骨折しやすい。骨折から寝たきり、認知障害を患って死に至るということはよくあること。人の命を奪いかねない行為だという自覚を持ってほしい」
スマホは従来の携帯に比べ画面も大きく、メールだけでなく地図やゲームといった機能も充実している。それだけに画面に集中し、周囲への注意がより散漫になりやすい。
愛知工科大の小塚一宏教授(交通工学)は、横断歩道や駅のホームを、スマホで通話やツイッターをしながら歩行した場合の視線の移動範囲を調べた。
手ぶらで歩行した場合、視線は停留しても0.5秒以下で、視線をいろんなところへ動かして周囲に気を配っているのに対し、通話では視線の動く範囲が狭まり、視線の停留時間が少し長くなったり、うわの空となる。そして、ツイッターをしながらだと、たまに前方に視線を移すことはあっても、左右の視野はほとんどないに等しかった。
「スマホでツイッターをしながら歩いた場合、横方向への視線の移動範囲は3分の1にまで縮小します。顔を動かさず視線だけで前方を見ても、ちらっと見るだけなので視野は下向き状態のままでスマホ画面から離れていない。周囲の危険を認識して対応しようという判断力や注意力が落ちた状態になっています。つまり、人や車とぶつかりやすいのです」(小塚氏)
※週刊ポスト2013年5月3・10日号