来年の4月には8%、再来年10月には10%へと消費税が引き上げられる見込みだ。食品などについては軽減税率の導入も議論されているが、霞が関の官僚たちはどう考えているのか。本誌伝統企画・官僚座談会の呼びかけに応じた、財務省中堅のA氏、経済産業省中堅のB氏、総務省のベテランC氏、厚生労働省から若手D氏の4人が本音をぶつけ合った。
●司会・レポート/武冨薫(ジャーナリスト)
──新聞業界は「新聞など生活必需品には軽減税率を」とロビー活動に懸命だ。
厚労D:筋が悪すぎます。欧米でも食品などに軽減税率を適用しているが、その線引きが難しい。税の専門家の間では常識だが、ドイツは同じハンバーガーでも店で食べれば「外食」として19%課税、テイクアウトなら「食品」として7%軽減税率を適用しているから、テイクアウトで注文して店のテーブルで食べるという“脱税行為”が横行する。
欧米ではすでに、「軽減税率は所得再配分効果が薄く、政治利権を招く」という評価が定着し、給付付き税額控除に変わってきている。それなのに日本ではなぜ、いまさら軽減税率にするのか。
財務A:われわれも軽減税率の問題点は研究している。税の仕組みが複雑になり、企業のコストもかかる。給付付き税額控除が望ましいという立場だ。
経産B:それはあくまで建前でしょう。消費税の軽減税率はまさに「第2の租税特別措置」(※注1)だ。その証拠に、財務省は政権交代後、自民党税調のインナー(※注2)を復権させ、財務官僚OBの野田毅・税調会長を中心に「軽減税率制度調査委員会」で業界団体から軽減税率導入のヒアリングを開始している。
新聞業界、医師会、食品、小売業界などが軽減税率を求めて陳情活動を始めており、与党は「軽減税率にします」といって参院選の票を集める。税務を握る財務、総務両省も、複数税率を導入した方が、どの品目をいくらの税率にするかのサジ加減で業界に睨みを利かすことができる。まさに利権づくりではないか。
総務C:ご高説はもっともな点もあるが、その租特を業界再編や産業転換に一番利用してきたのは経産省じゃないの。
──財務省は食品に軽減税率を導入すれば税収が3兆円減るといっている。本気でやる気がある?
経産B:すぐに導入したら睨みが利かない。「やるやる詐欺」が一番いい。
厚労D:国税庁のレポートでは、欧米の食料品の軽減税率は平均10%前後となっている。今回は導入せずに消費税を10%以上に上げるときに導入することになるでしょう。それまで「軽減税率」を適用する品目、サービスを検討するといえば、ずっと業界への影響力を維持できるわけですね。
【※注1】特定の業種や製品に期限付きで免税や減税などの税制優遇を与える制度。毎年、年末の税制改正で見直しが行なわれるが、自民党政権では党税制調査会が決定権を握り、票を得るために各業界からの要望を受け入れたために優遇措置は増え、税制のゆがみを招いたと批判されている。
【※注2】自民党税制調査会の会長、小委員長、顧問など幹部会メンバー。毎年の税制改正はこのインナーと呼ばれる税制に詳しい少数の議員が財務、総務両省と調整して決定してきた。かつては財務、総務両省OB議員が独占していたが、最近は官僚出身議員の他に派閥領袖クラスの実力者が就任している。
※週刊ポスト2013年5月3・10日号