俳優の基本は「肉体」であるというが、アクション俳優と並ぶと見劣りしてしまう人も少なくない。ところが、『白昼の死角』『戦国自衛隊』で千葉真一と共演した夏八木勲は、実に美しい肉体をもっていた。映画史・時代劇研究家の春日太一氏が、俳優にとっての「肉体」について、夏八木の言葉をつづる。
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1970代後半から1980年代前半にかけて、夏八木勲は角川春樹の製作した超大作映画に次々と重要な役どころで出演している。中でも印象的なのは『戦国自衛隊』と『白昼の死角』で、いずれも千葉真一と「男と男」の熱い友情のドラマを展開した。
両者の燃えたぎる魂は、芝居を超えたものとして観客に迫ってくるものがあった。同時に驚かされるのは、世界的アクションスターである千葉に全く引けをとることのない、夏八木の隆々とした筋肉の美しさである。
「肉体というのは俳優の基本中の基本ですからね。特別に美しく見せようとは意識していませんが、健康的な肉体でいようという意識だけはありました。
千葉ちゃんとは生まれた年が一緒なんですよ。最初に共演したのは『あゝ同期の桜』(1967年)っていう映画で。当時は僕もまだ新人で京都に来たばかりで、マイペースのまま挨拶の仕方もしらない状態でした。そこを千葉ちゃんがいろいろと面倒を見てくれまして。『何も知らない奴だから、あまりいじめないでくれよ』と周囲に言ってくれたんです。お陰で見知らぬ京都でかなり過ごしやすくなったので、本当に感謝しています。
千葉ちゃんのそういう性格はもちろんだけど、あそこまで自分の肉体を意のままに操れるように鍛えたことに僕はビックリしてね。それで、千葉ちゃんから『JACでアクションの練習をしているから、なっちゃんも暇があったら来てみない?』って誘われたので、時間がある時は練習場に行って、紛れて一緒に鍛えたりしていました」
若い頃はギラギラとした野性味が魅力的だった夏八木だが、近年では映画『剱岳~点の記』での修験者役や映画『希望の国』の酪農家役で、枯淡の域に達したともいえる老境の芝居を見せている。また、深田恭子主演のテレビドラマ『富豪刑事』では大富豪役をコミカルに演じるなど、一つのイメージに留まらない、幅広い役柄に挑戦している。
■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか。
※週刊ポスト2013年5月3・10日号