船旅がいま、新たな旅行市場として注目を浴びている。JTBは2013年を“クルーズ隆盛時代”と位置づけ、販売を強化。また、世界最大のクルーズ会社カーニバル・コーポレーション&plcグループのプリンセス・クルーズが日本発着のクルーズ旅行を始め、このゴールデンウィークには横浜発着の日本・韓国9泊10日デビュー・クルーズが発進した。
これまで、外国のクルーズ会社の客船が日本の港へやってくる場合は、欧州や米国、アジアでも香港などを発着とする航海中の船が「寄港」するだけだった。だが、プリンセス・クルーズは日本に現地法人を設立し、横浜や神戸を発着地としたクルーズ旅行の提供を始めたのだ。
何といっても目を引くのは、価格帯の幅広さだ。旧来の船旅のイメージ通り贅沢な金額の客室もあるが、最も安い内側客室だと12万4千円で横浜を出発し釜山、済州島、台湾の高雄、台北を9泊10日でめぐることができる。この価格には往復の移動と宿泊に食事、船上でのレクリエーションも含まれていることを考えると、ずいぶんお得な旅行代金だ。
安い価格につられて、よく調べずに乗ってしまうと期待外れになることもあるので注意してほしいと、クルーズ旅行を販売する旅行会社の社員は言う。
「外国会社の船は、日本の船と比べてかなり大きいんです。日本の豪華客船として知られる『飛鳥II』は定員が800人ぐらいなのに比べ、プリンセス・クルーズの『スター・プリンセス』は3千人以上です。部屋数が多いと、さまざまな価格設定がしやすいので安くなりますが、船旅なのに海が見えない部屋だったりするんですよ。日本の船だと、まずそういうことはないんですけどね」
日本人のクルーズ旅行利用者数は、2011年で18.7万人(国土交通省調べ)。過去を振り返っても、日本のクルーズ元年と言われる「ふじ丸」(商船三井)が就航した1989年が15万4千人、翌1990年は17万5千人に増えたが、以後は微増微減が繰り返されるばかり。利用者数は20万人前後から動かない状態が続いている。市場としては停滞していた印象がぬぐえない。
一方、世界のクルーズ産業は近年、急激に伸び続け、今やクルーズ人口が2千万人に迫ろうとしている。旧来のシニア向けだけではなく、カップルや家族連れが、ときにはペットも一緒に移動しながら旅を楽しむ形が広まってきている影響だという。ところが、これほど伸びているクルーズ人口の大半が米国と欧州で、アジア市場は未開拓なのだ。
外資を迎え撃つ形になった日本のクルーズ会社が加盟する、一般社団法人日本外航客船協会事務局は「商売敵が増えるので、もろ手を挙げて賛成とは言えないんですが」としつつも、市場拡大の効果も期待している。
「米国では1990年にクルーズ人口が350万人だったのが、2000年には690万人、2011年には1044万8000人と約3倍に増えています。一方、日本は20年間、ほぼ横ばいです。ですが、団塊の世代がリタイアし始め、海外で船旅を体験する人も増えてきたので、日本市場は拡大する見込みがあるとみられています。クルーズ人口の分母が増える効果が出れば、日本のクルーズ会社のサービスの質の高さが改めて注目を集めると期待しています」
価格帯やホスピタリティなど、好みに合わせた選択肢ができるようになったクルーズ旅行。移動そのものも楽しむ、新しい旅の形として日本にも定着する日は近いか。