ビジネス

入社試験のSPI 有能な人材取りこぼすとベストセラー統計家

「統計学のリテラシーが高まれば産業は活性化する」と西内啓氏

 新入社員や異動組がそれぞれの部署に配属され、仕事が回り出す時期。決まって人事部から聞こえてくる話題は、「今年の学生はここが足りない」「このメンバーで営業効率が上がるのか」といった不平不満だ。しかし、そもそも企業の採用基準や上司・部下のマッチングがうまく機能していたのか。『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社刊)の著者である西内啓氏が、統計学を活用できない日本企業の盲点を鋭く突く。

 * * *
――企業の採用試験でよくSPI(適性検査)が使われますが、一般教養が広く大切か、得意分野でズバ抜けた才能が必要かは常に問われるところです。

西内:言語能力や数学能力を広く評価して、何となくSPIの点数が高いことが採用基準になったりしますよね。確かに一般的知能はすべての値と相関するはずなので、押し並べて高得点なら知能指数も高いとは言えますが、それは非常にもったいないやり方です。

 数のセンスは要らないけれど言語能力が求められる仕事だったり、一般教養がなくても体で覚えれば活躍できる仕事だってたくさんあります。いろんな仕事や従業員の多様性を考慮しないで採用してしまうと、本当に力を発揮する必要な人材を取りこぼすことになるのです。

――志望学生と会社が欲しい人材のマッチングがうまく行われていない気がします。

西内:日本人はもっと統計学の知恵をうまく使えばいいと思います。例えば子供のころにやった知能検査。日本で主流になっているビネー式は、フランスのアルフレッド・ビネーらによって開発された発達遅滞児の診断法が基になっています。その後、統計学的な検討もされていますが、そもそも知性とは何かという定義が用いようとする目的に合っているのかどうか。

 心理統計学の領域において知性の定義にもさまざまなものがありますが、その中で特にどのような種類の知性が求められているのかは、業務の内容や環境によっても変わってきます。これは知性だけに限った話ではなく、例えば上司のリーダーシップなどについても、絶対的な正解があるわけではなく、状況や部下との相性などで有効なものが変わるということも統計学的な実証がなされていたりもします。

 決まりきった作業をするのに強いリーダーシップはいりません。むしろ重要なのは、感情面でのサポート、つまり優しくフレンドリーな上司のほうが生産性が上がるという結果が示されています。一方、抽象度の高い仕事が求められる部下は最初何をやっていいのかすら分かりません。そういった場合、リーダーがきっちりラインを引いて、一人ひとりに明確な役割を与えたほうが生産性は高まるそうです。

――西内さんは小売業界などに統計学を用いた経営コンサルもしていますが、それが浸透すれば、人材の有効活用も含めて経営効率は上がってくるのでしょうか。

西内:皆さんがもっと統計学のリテラシーを持てば、産業自体は活性化します。アメリカのビジネススクールで絶対に教える日本語がひとつだけあります。それはトヨタ生産方式として知られる「カイゼン(KAIZEN)」です。

 もともと「改善」とは、戦後、アメリカが日本に送り込んだ経営学者であり統計学者のW・エドワーズ・デミングが、工場の生産プロセス、つまり数値と取って変化を見て改善点をみなで議論しなさいと指導した手法です。デミングはもともとアメリカ国内で強い影響力を持っていたわけではなかったのですが、日本でその考え方があまりにも成功したために、アメリカの製造業も遅れてキャッチアップしてきた歴史があります。

――日本ではかなり改善活動も進んでいるように見えますが、もっと統計学をビジネスに応用しなければ生産性は上がらないと?

西内: 改善や「見える化」の比較がまだ不十分だと感じます。儲かっているときとそうでないときの違いは何なのか。売り上げを上げるセールススタッフと上げないスタッフはどこが違うのか。その比較ができていないので次のステップにいけません。

 例えば、タイプ別の顧客を何十人かずつ掴まえてくれば、そのうち何パーセントが、平均いくらの売り上げにつながったのかといったデータは取れるでしょう。すると、顧客リストをもっと増やすという仕事に対してどれだけの利益が見込めてどれだけのコストをかけられるのか、またどのようなタイプの顧客にフォーカスすべきなのかが見えて、意思決定がしやすくなると思います。

【プロフィール】
西内啓(にしうち・ひろむ):1981年生まれ。東京大学医学部卒業(生物統計学専攻)。その後、同大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教やダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員などを歴任。現在、調査・分析などのコンサルティング業務に従事している。著書の『統計学は最強の学問である』(ダイヤモンド社刊)は発行部数25万部を超えるベストセラーに。

【撮影】横溝敦

関連キーワード

関連記事

トピックス

百合子さまは残された3人の仲を最後まで気にかけられたという(2023年6月、東京・港区)
百合子さま逝去で“三笠宮家当主”をめぐる議論再燃か 喪主を務める彬子さまと母・信子さまと間には深い溝
女性セブン
氷川きよしが紅白に出場するのは24回目(産経新聞社)
「胸中の先生と常に一緒なのです」氷川きよしが初めて告白した“幼少期のいじめ体験”と“池田大作氏一周忌への思い”
女性セブン
公益通報されていた世耕弘成・前党参院幹事長(時事通信フォト)
【スクープ】世耕弘成氏、自らが理事長を務める近畿大学で公益通報されていた 教職員組合が「大学を自身の政治活動に利用、私物化している」と告発
週刊ポスト
多くのドラマや映画で活躍する俳優の菅田将暉
菅田将暉の七光りやコネではない!「けんと」「新樹」弟2人が快進撃を見せる必然
NEWSポストセブン
阪神西宮駅前の演説もすさまじい人だかりだった(11月4日)
「立花さんのYouTubeでテレビのウソがわかった」「メディアは一切信用しない」兵庫県知事選、斎藤元彦氏の応援団に“1か月密着取材” 見えてきた勝利の背景
週刊ポスト
田村瑠奈被告(右)と父の修被告
「ハイターで指紋は消せる?」田村瑠奈被告(30)の父が公判で語った「漂白剤の使い道」【ススキノ首切断事件裁判】
週刊ポスト
10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
「週刊ポスト」本日発売! 小沢一郎が吠えた「最後の政権交代を実現する」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 小沢一郎が吠えた「最後の政権交代を実現する」ほか
NEWSポストセブン