この4月1日から朝日新聞朝刊の紙面に“異変”が起きた。20年以上続く、いしいひさいち氏の名物4コマ漫画『ののちゃん』の掲載場所が、社会面の左端から右端へと移動したのだ。
「ついに朝日も右寄りになったか」──そんな印象を抱いた読者は少なくないのではないか。
これだけなら笑い話であるが、朝日の面舵(右旋回)は漫画の位置だけではない。社説を時系列で読み比べると、安倍晋三政権に対する批判姿勢を180度大きく変えていることがはっきりわかる。
かつて朝日新聞といえば、厳しい安倍批判が売りだった。象徴的なのが、7年前に安倍氏が52歳の若さで自民党総裁に就任した際の、「安倍新総裁 不安いっぱいの船出」と題する社説(2006年9月21日付)だろう。
〈これから新時代の政治が始まるという新鮮さがあまりわきあがってこないのはなぜだろうか。安倍氏が前面に掲げたのは「戦後体制からの脱却」であり、祖父である岸信介元首相譲りの憲法改正だった。戦後生まれが戦後の歩みを否定するかのようなレトリックを駆使する。そのちぐはぐさに復古色がにじむからかもしれない〉
そう疑問を呈し、〈首相という大きな衣に体が合わないという違和感は続くだろう〉と、まるで“首相の器ではない”といわんばかりの書き方だった。 ところが、ここにきてその朝日の論調が一変した。これを読んでいただきたい。
安倍首相が、「強い日本。それを創るのは、他の誰でもありません。私たち自身です」と国民に呼びかけた施政方針演説に対して、朝日は社説で、「施政方針演説 さあ、仕事をしよう」(今年3月1日付)とエールを送り、4月5日には、「政権100日 難所はこれからだ」という社説でこう持ち上げているのだ。
〈安倍首相が「経済再生でロケットスタートを」と宣言した通り、大規模な財政出動と金融緩和の「アベノミクス」を打ち出し、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加に道を開くなど、次々と手を繰り出した。首相の持論である「戦後レジームからの脱却」をひとまず封印し、最大の懸案だった経済再生に集中的に取り組んできた姿勢は評価できる〉
べた褒めといっていい。朝日はまるで安倍首相の方がタカ派の持論を封印したように書いている。しかし、安倍首相は、「7月の参院選は憲法改正を掲げて戦う」と国会で答弁し、連立を組む改憲慎重派の公明党の山口那津男・代表から、「少し前のめりの感じがする」と苦言を呈されるほど意気軒昂なのだ。
明らかに、封印したのは朝日の安倍批判の方だ。
※週刊ポスト2013年5月17日号