日本では7月からようやく解禁となったネット選挙だが、欧米ではインターネット選挙は常識となって久しい。便利な一方、トラブルも多い。ネット選挙先進国の実態を追った。
2007年4月のフランス大統領選では右派国民連合のニコラ・サルコジ氏と左派社会党候補のセゴレーヌ・ロワイヤル氏がネット上で火花を散らした。両陣営とも支持団体や党の選対本部がネットを通じて支援者、報道陣に選挙運動の日程をはじめ候補者の一挙一動を伝えた。
さらに燃え上がったのが、ネット上の仮想世界である「セカンドライフ」だった。「セカンドライフ」はアメリカ・サンフランシスコに本社を置くゲーム会社「リンデンラボ」が運営するネット上の仮想世界で、世界で約200万人が「アバター」と呼ばれる分身を操って活動する。
サルコジ、ロワイヤル両氏に加えて極右政党・国民戦線のルペン氏、フランス民主連合のバイル氏の4候補が「セカンドライフ」にそれぞれ事務所を開設し、バーチャルな選挙戦を繰り広げたのだ。
右派と左派の政治論争が仮想空間に持ち込まれ、特にロワイヤル氏とルペン氏間の論争が激化。双方の支持者が操るアバターによる相手の事務所の打ち壊しや、格闘などの“襲撃事件”にまで発展したのだった。
決選投票でサルコジ氏が勝利したが、彼のインターネット予算は100万ユーロ(当時のレートで約1億6000万円)。ロワイヤル氏が200万ユーロ(同約3億2000万円)だったという。ネットは少ない資金で選挙活動できるという言説とは違う結果となった。
ネット選挙では誹謗中傷、ネガティブキャンペーンも各候補の頭痛の種だ。オランダでは2010年の総選挙で、1967年生まれの青年首相、マルク・ルッテ氏(自由民主国民党)を「母親から自立できないゲイ」として描いた中傷ビデオがネットにアップされ、近隣諸国からも驚きの目が向けられた。結果的に、自由民主国民党が勝利したが、その後、敵対政党・労働党との葛藤が深刻なものになった。
※SAPIO2013年5月号