パスポート写真は本物なのに…
今年のゴールデンウィークは、真ん中に平日が入る分裂連休。円が安くなった影響もあり、海外旅行人数は昨年よりも減少したものの、過去2番目の多さだ(JTB調べ)。日本人は礼儀正しく、おとなしいと思われているから出入国での問題などないと自己評価しがちだが、実際には様々なトラブルに見舞われている。
4月にマレーシアへ出張した40代男性は、クアラルンプールの出入国審査で様々な質問をしつこくされ、とても時間がかかったのだという。
「パスポートの写真と自分を何度も見比べながら、日本ではどんな仕事をしていて、マレーシアへは何をしにきたのだとしつこく尋ねられました。写真は約10年前のもの。その頃と比べて20キロ以上も太ってしまったので、別人に見えたようです(苦笑)。その場で痩せてみせることはできませんから、今のパスポートを使う限り、同じような目に遭うんでしょうねえ」
20年以上のキャリアを持つベテラン添乗員に、パスポートの写真をきっかけに疑われることはよくあるのかと尋ねると、「意外に多いんですよ」という。よく起きるのは前述の男性のように太ったり、逆に極端に痩せたり、髪が薄くなるなどして印象がまったく変わってしまった場合。眼鏡を外したりマスクをとったりするだけで解決するような問題でないだけに、説明に四苦八苦するそうだ。
最近は、つけまつげにカラーコンタクトを装着、しっかりアイメイクをした若い女性にも多いのだという。
「顔の半分だけ化粧をした“半顔メイク”が右と左で別人だとネットで話題になりましたが、流行のカラーコンタクトで黒目を大きくして、しっかりアイメイクをした女性の顔も同じ人には見えません。人間の顔は、目元の印象がとても重要。こっそりパスポートの写真を確認して、実際とあまりに違う印象の場合は、飛行機のなかではメイクを薄くした方が肌の負担が減りますよと、それとなくすすめたりしています」
人は見かけによらぬものという言い方をして、外見だけでその人間を判断してはならないという戒めを言い表す言葉は、日本だけでなく世界中にある。ところが、こと出入国時には、人は見かけで判断されるのだ。
まず服装。貧乏旅行だからと、あまりに汚い服装でいると、観光を装って仕事をしにきたのではないか、違法なものを運搬しているのではないかと疑われやすい。また、旅行の日程と比べて荷物が多すぎたり、少なすぎても同様の疑いをかけられる。
バックパッカー旅行なんてしない、もっぱらツアーでしか海外へ行かないから関係ないと考えてはいけない。団体旅行であっても、見かけで判断されて入国に手間取ることもあるのだ。前述のベテラン添乗員は言う。
「フィリピンへ入国するとき、派手な柄シャツを着た男性のお客様が、別室へ連れて行かれて上着を脱がされました。入れ墨がないか確認されたのです。外国でも日本のヤクザの特徴が広まっていて、似たような格好をしていると疑われます。上着を脱がされた男性は、入れ墨などない背中を見せて、なんとか入国することが出来ました」
新婚カップル限定のツアーに、不倫カップルが参加していて添乗員がこっそりフォローすることもある。
日本人は結婚すると夫婦で同じ名字になると外国でも知られているので、パスポートの名前が違うと質問される。旅行後に入籍するつもりの新婚さんの場合は、入国管理官に理由を尋ねられても楽しく経緯を説明できるが、不倫カップルの場合は聞かれたくない。添乗員が同行している場合は、入国管理官へこっそり『この人たちは大丈夫!』と伝え、手間取って不愉快な思いをしないように気を遣うのだという。
楽しい旅の思い出をつくるためには、信用されやすい様子を振る舞う演技も楽しむ余裕が必要なようだ。