竹下正己弁護士の法律相談コーナー。今回は「息子が死亡、外国人女性が遺産を要求。どう対応すればよいか」と以下のような質問が寄せられた。
【質問】
先月、50歳の息子が急死。問題は半年前にフィリピンで知り合い、身内だけの挙式を済ませ、入籍はまだの嫁のことです。来月には婚姻届を出す予定でしたが、今回の事態で帰国するにあたり息子の遺産を全額ほしいと譲りません。遺産は約3000万円。やはり嫁に全額を渡さなければいけませんか。
【回答】
国際結婚で生じる日本人と外国人との身分や相続の関係については、まずどこの国の法律が準拠法として適用されるかを決める必要があります。準拠法決定のルールを定める法の適用に関する通則法第36条では相続の準拠法を被相続人の本国法としています。
息子さんは日本人ですから、日本法の適用があります。わが国の民法では、子がいなければ、配偶者が3分の2、親が3分の1の割合で相続します。次に、彼女がこの配偶者といえるかが問題になります。通則法第24条第2項で、「婚姻の方式は、婚姻挙行地の法による」と挙式地法で方式を定めるとしていますから、日本で挙式しているので日本法が準拠法になります。
なお第3項では、「当事者の一方の本国法に適合する方式は、有効とする」ともしていますが、その但書で「日本において婚姻が挙行された場合において、当事者の一方が日本人であるときは、この限りでない」と定めており、日本法が適用されることは間違いありません。
民法では、婚姻届を出したものが法律上の夫婦です。内縁関係だと夫婦同様に暮らしていても残念ながら、相続人にはなれません。婚姻届がない以上、彼女は息子さんの法律上の配偶者ではなく、遺産相続できません。
ただし同棲期間が長くて、実質的な夫婦の共有財産を形成しているのであれば、その半分は彼女に帰属すると思います。これは通則法第25条で婚姻の効力の準拠法を夫婦の生活の本拠地の法としているところ、日本では内縁関係について、民法第768条の財産分与制度の適用があるとされているからです。
以上、彼女の主張は法的には無理です。理解を得るのは難しいでしょうが、彼女が信頼する人に説明を依頼するのがよいでしょう。また、息子さんの遺志も推測し、手厚くしてあげることも大切です。
※週刊ポスト2013年5月17日号