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飼い主だけでなく愛犬の満足度にも着目したシートが大ヒット

 ペット用品は飼い主、人間の利便性を中心につくられるものだ。ところが、飼い主だけでなくペットの目線にも着目したことで、ペット用トイレシート『ハッピーわんデイアロマで消臭ペットシート』(ライオン商事)は誕生したという。ペット用品の本当の消費者、ペットたちの満足度に注目するできたのはなぜなのか、その秘密を探った。

 今や日本の家庭では犬や猫のペット数(約2150万頭)が15歳以下の人口(約1690万人)を上回る時代。愛犬も玄関先の犬小屋で寝起きする“番犬”はすでに少数派。約8割のペット犬が室内飼いなのだという。

 室内飼いのペット犬は当然のことながら排泄も屋内。必然的に犬用トイレシートの市場は激戦区になった。

「ペットはかわいいし、家族のような存在という人は多いですが、それでも排泄物の処理を苦痛に感じている人は多いようです」

 と語るのはライオンでペット用品を手がける岸実。台所用洗剤やクッキングペーパーの部署を経て、ペット部門に異動、猫砂担当を12年務め上げたベテランだ。

「当社は猫砂ではダントツのシェアを確保していましたが、犬用のトイレシート市場に参戦したのは2002年。後発だったため苦戦続きでした」

 岸らが常に優先するのは「ペットとの共生」ということ。所属部署の「シンビオシスケア事業室」も「共生」を表わす言葉だ。

「飼い主の利便性よりもペットの目線で考えるということです」

 それがいかに大事なことか、岸はあるエピソードを話してくれた。ある年、ペット市場で、犬の毛をケアする商品が爆発的に売れた。ところがその商品、翌年にはなぜかぱったり売れなくなったのだという。

「飼い主の目線では、手軽にケアできる便利な商品に見えて皆が一斉に買い求めた。ところが実際に使ってみると、ペットがそれを嫌がったということです」

 もともとシェアトップの猫砂では、強い香りでマスキング(臭いを抑える)する手法を取らず、悪臭も一つの成分と捉え、悪臭と調和する香料を用いて成功を収めていた。だが、その路線もペット犬目線で考えた場合、難題があった。

「犬の嗅覚は人間の1億倍。香りには非常に敏感です。そのためトイレシートに香りを入れることがそもそも違うのではないかという意見もありました」

 よしんばペット犬が好む香りがあったとしてもその香りが人間の嗜好と異なるものだったら……。難題だったが、煩悶していては前に進めない。犬がどのような香りを好み、嫌がるのかを調査することにした。

 さまざまな犬種を数百頭飼育している公的機関の協力を仰ぎ、実験を行なったのだ。候補の香料を数十種類に絞り込み、犬たちの反応を窺った。吠えたりその場から忌避したりするような香りは候補から除外。市販されている猫よけ粉末でも使用されている香りはここでも真っ先に除外された。

 調査は長引き、なかなか結論は出なかった。そんな時にヒントをくれたのは同社「調香技術センター」の研究員だった。

 トイレの芳香剤や台所用洗剤、歯磨き粉など同社の全ての商品の香りを司る重要な部署の一員の何気ない一言が開発チームに一筋の光をもたらした。

「犬って散歩の時に草むらを見つけると突進するじゃないですか。嫌いではないし、好んでいるはず。しかも草(リーフ)の香りは芳香剤としても人間にとっても人気が高い」

 岸は試してみる価値があると即決した。早速リーフの香りを母体にした香料の選定に取り組んだ。

 消臭効果のある成分は約100種。これらをブレンドしながら、犬の尿の臭いに対し、高い消臭効果が得られる成分を絞り込んだ。さらに30種近くの香料と組み合わせ、犬と人間の双方が心地よく感じるリーフの香りを探し求め、「リーフ&ラベンダー」の香りに辿りついた。

 商品化の最終プロトタイプの使用者からは「これまで苦痛だったシートの交換が楽しくなった」という声が届き、売り上げは前年比140%増を記録した。

「人間の“ハッピー”は犬にも伝わる。我々の商品は人もペットも幸せにできると信じています」

■取材・構成/中沢雄二(文中敬称略)

※週刊ポスト2013年5月17日号

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