働き方が多様化している。自由に働く「ノマド」や「フリーランス」が一時ブームとなり、会社員が「社畜」と称される一方で、実際にノマドで働く厳しさも知られるようになってきた。そんななか、会社員でありながら“2枚目の名刺”を持ち、社外でもビジネスを行う人たちが増えている。フリーランスでも会社員でもない、いわば第三の道が、生まれつつあるようだ。
『人生が変わる2枚目の名刺 パラレルキャリアという生き方』の著者である柳内啓司さん(32)は、大手民放キー局に勤めながら、個人活動として、交流会や勉強会を主催している。その柳内さんに、2枚目の名刺を持つ働き方の秘訣を聞いた。
* * *
――本業だけでもお忙しいと思います。さらに個人活動を行うのは大変なのではないですか。
柳内:いま、会社の仕事は非常に面白くて、充実しています。ですが、会社の看板でやらせてもらっているという自覚はあるんですね。看板なしに自分がどれだけできるかを試したいという気持ちから、個人活動を始めるようになりました。「2枚目の名刺」を持つ生き方と僕は読んでいるのですが、本業以外の活動をする人が、同世代を中心に、増えています。
――本業と2枚目の名刺(個人活動)を両立させるために必要なことは何でしょう。
柳内:本業を第一優先、これが原則です。個人活動の予定を入れた後に、本業の予定が入った場合でも、必ず本業を優先します。本業がベースなので、ここを疎かにすると、全部がだめになる。個人活動を優先させたいと思うようになったら、会社を辞めたほうがいいですね。この原則を守った上で、あとは遠慮せずにどんどんやっています。
――時間管理において気を付けている点は?
柳内:本業・個人活動に限らず、やりたいことからやる、というのが最強のマネジメントだと思っています。やるべきことは、もちろん期限内にやらなくてはいけない。でも、やるべきことに時間をかけすぎたり、そればかりやっていると、やりたいことが回ってこないんです。やりたいことを詰め込んでいくと、整理せざるをえなくなって、おのずと効率が上がります。また、やりたいこと・やるべきことは、to doで並べるのではなく、スケジュールに落とし込むようにしています。やはり時間の締め切りは必要だと思うので。
――本業と個人活動の切り替えは、どうやって行うのですか。
柳内:切り替えという意識はないんです。2枚目の名刺を持つ生き方をしていく上でおすすめしたいのは、“さらけ出していく”ことです。表と裏をなくしていく、あるいは本音と建て前の垣根を薄くしていくイメージです。
会社の自分と、個人活動の自分とで、人格を変えていると疲れちゃうと思うんですね。自分という軸は一つで、その軸で、会社の仕事もするし、別の仕事もする。もちろん、場所によって立ち居振る舞いを変える必要などはあるでしょうし、バランスは大切です。でも、このソーシャル時代、いろんな世界がクロスオーバーしていくほうが楽しいし、新しい展開も生まれるのではないでしょうか。
たとえば僕は、個人活動でこんな人に会ったとか、ランチをしたとかを、会社でも言うようにしていますし、facebookでも出しています。隠さない。そうすると、誰かが見てくれたり、思い出してくれて、新たな仕事につながったりするんですね。
――個人で発信される柳内さんに、社内でネガティブな反応はないですか。
柳内:正直あまりよく思わない人もいますが、応援してくれる人も多くいます。ただ、自分のやりたいことをはっきり表明することが大事だと思っています。その結果、ネガティブな反応が出るのは仕方ないこと。それ以上に、応援団ができるメリットのほうが大きい。僕は、個人として信頼関係を築けている人を「本物の社内人脈」と呼んでいますが、本音を公言しないと、本物の社内人脈はできません。
毒にも薬にもならない人材は、10年後、必要とされなくなる危険性が高いと思うんですね。個性を出していくことが大切な時代です。もちろん、敵をできるだけ減らすものの言い方や、立ち回りも必要です。たとえば無駄なケンカをしない。苦手な人であっても、悪口を言わない、積極的にコミュニケーションをとるなどは心掛けています。
――冒頭で、“2枚目の名刺”の実践者が増えていると仰っていました。著書でも、伊藤春香(はあちゅう)さんや慎泰俊さんなどをご紹介されていますね。
柳内:彼らは、僕がロールモデルにしている人ですね。本では紹介していませんが、安藤美冬さんもそうです。本にも書きましたが、僕はロールモデルを持つことを提唱しています。ロールモデルとは、行動や考え方を模倣し、学習する対象となる人ですね。その時に大事なのは、ロールモデルを複数持つこと。一人だけに影響されると、悪い方向に行くこともあるからです。そして、いいなと思った点を、どんどんマネすることです。
――柳内さんにとってのロールモデルは誰ですか?
柳内:一番憧れているのは、ミスチル(Mr.Children)の桜井和寿さんです。僕がテレビ局に入ったのは、人の気持ちを揺さぶる仕事につきたいと思ったから。桜井さんの歌は、間口が広く、誰でもわかるのに、自分のことを歌っているんじゃないかと思わせる力がありますよね。さらに、社会活動を行っていて、守るべき家庭がある。憧れます。
同じ業界にもそういう方々はたくさんいます。ただこれからは、僕たちがモデルになる番。そういう気概を持って、今後も活動していきたいです。
【プロフィール】
やなぎうち・けいじ●1980年神奈川県生まれ。東京大学大学院卒。大学院在学中に、サイバーエージェントにてインターネットビジネスの黎明期に携わる。卒業後、民放キー局に入社。エンジニアとして働きながら、勉強会や交流会を主催するなど、複数の名刺を持って、社外でも活動中。バンドや自転車サークルのリーダーも務める。現役サラリーマンの立場から、2枚目の名刺を持つ働き方(パラレルキャリア)の魅力を伝えるための活動を行っている。