富士フイルム、サントリーホールディングス、第一三共ヘルスケア、味の素、江崎グリコ……。これら業種も違う大手企業に共通するのは、化粧品を販売していることだ。
もともと医薬品に使われる有効成分が化粧品に応用しやすかったことから、製薬メーカーの化粧品事業への参入は1960年代からと早かった。その後、主にスキンケア市場が活性化したのは、米ぬかを原材料にするなど酒造会社を筆頭に加工食品メーカーの新規参入が相次いだ1990年代以降と見られている。
そして、2000年代に入ると意外な企業の化粧品参入で、業界は一気にざわめいた。
「製薬会社でも食品会社でもない富士フイルムが突如、2006年に化粧品(アスタリフト)を売り出したことで業界だけでなく消費者にも強烈なインパクトを与えました。最初は化粧品専門の販売ルートを持たなかったため通販からスタートしましたが、松田聖子さんなどCMを使ったアンチエイジング(抗加齢)機能の訴求も奏功し、今では売上高100億円を超え、毎年2ケタ増の伸びとなっています」(経済誌記者)
フィルムの材料に含まれるコラーゲン、写真プリントの色褪せ防止に役立つ抗酸化技術。これら成分訴求は異業種であればあるほど消費者に目新しい印象を与える。市場調査会社・富士経済の化粧品グループ調査員である山住知之氏もいう。
「化粧品は医薬品と違って効能・効果を打ち出しにくいので、コンセプトが命です。そこで異業種ならば、なぜ自分たちが化粧品に参入したのかという理由を知らせる目的で、『従来、本業で培ってきた○○技術を使って……』とストーリーを組みやすいのです」
味の素(アミノ酸)、サントリー(酵母)、第一三共(トラネキサム酸)、江崎グリコ(グリコーゲン)――。確かにこう列挙してみると、異業種参入組はすべて自社で開発・商品化している独自成分を化粧品に応用していることが分かる。
さらに、シワ・ハリ対策や美白を謳うコンセプト市場が新たな顧客を掴んでいることも、異業種にとっては追い風だという。
「40代を迎えた団塊ジュニア世代のアンチエイジング意識が高まるとともに、30代以上を対象とした新ブランドの投入・リニューアル時にアンチエイジングへ訴求変更するブランドが増加しました。価格も高価格帯だけでなく、2000円以下のものまで幅広く揃っているため、これまであまり化粧品にお金をかけない層も引き付けています」(前出・山住氏)
富士経済によれば、全体の化粧品市場はこの10年、2兆2000~3000億円の推移が続き、ほぼ横ばいが続く中、シワ・ハリ対策商品は毎年ジワリと拡大。2012年は5000億円を突破する見込みだという。
だが、この勢いに乗って異業種参入が今後も増えるのかというと、そう甘い世界ではない。
「話題になればなったで、今度はリピーターを増やすのが難しくなります。マーケティングコストが潤沢にある大手ならいいですが、中小企業は特に厳しいはず。安全性・機能性・信頼性を幅広く訴えて、次の購買にどうつなげるかが新規参入組にはいちばんの課題になるでしょう」(山住氏)
いずれにせよ、トップの資生堂でさえ、国内事業の売り上げを下方修正するほど浮き沈みの激しい化粧品業界。異業種も交えた仁義なき戦いは、今後もしばらく続きそうだ。