相続税は一部の富裕層の話、などと思ってはいけない。再来年から基礎控除額が大幅に引き下げられ、課税対象が中間層にまで拡大するからだ。税理士法人タクトコンサルティングの本郷尚氏は「相続税が払えず、実家の土地を手放さざるを得ないケースが増える」と予測する。以下、本郷氏のシミュレーションだ。
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今の制度では両親と子供2人の4人家族で父親が亡くなった場合、不動産や金融資産などをあわせて遺産が8000万円あっても相続税はかからない。
現行の相続税の基礎控除額は、【5000万円+1000万円×相続人の数】で、右記の場合8000万円の控除が受けられるからだ。それが法改正により、2015年1月1日以降、【3000万円+600万円×相続人の数】となり、4割も引き下げられる。
冒頭の家族の場合は、基礎控除額は4800万円となり、残りの3200万円に課税される。細かな計算は省略するが、法定相続分で相続した場合、175万円の相続税を支払わなくてはならない。このようにこれまで相続税と縁のなかった中間層にも課税の網がかかる。国の試算では、相続税の課税割合(死亡者数に対する課税件数の割合)は、4.2%から6%程度に増え、3000億円の税収増、つまり増税になる見込みだ。
問題はその対象となるのが必ずしも富裕層とは言えないことである。地価の高い首都圏では状況は深刻だ。課税割合を都内23区に絞ると、千代田区の27.7%を筆頭に、渋谷区19.1%、港区18.1%など、山手線内やその沿線など7区で15%を超え、平均でも9.6%に達している(2010年時点、タクトコンサルティング調べ)。
法改正により、今後さらに割合が増え、都区内で4件に1件、都心では3件に1件が課税対象になると私は予測している。彼らは都市部に住んでいるため持ち家の評価額が高いというだけで、暮らしぶりが裕福だというわけではないのだ。
相続税は10か月以内に現金で払わなければならない。払えなければ親の土地を手放さざるを得なくなる。アベノミクスで地価が上昇すれば、そうした人が増えてくるのは避けられない。そしてアベノミクスが成功して景気がよくなればなるほど地価も上昇し、“相続危機”は山手線沿線や都区内にとどまらず、神奈川県や千葉県など首都圏全体に波及するはずだ。
※SAPIO2013年5月号