美術初心者には少々敷居が高いと思われがちなナマの日本美術を見に行く「大人の修学旅行」。「日本美術応援団」の団長を務める明治学院大学教授の山下裕二氏と『新日曜美術館』(NHK)の司会も務めていた女優の森口瑤子さんが、向かった先は、大阪の実業家・細見家が3代にわたり蒐集した屈指の日本美術コレクションで知られる細見美術館だ。
最上階にある茶室・古香庵のやわらかな自然光の中で、「江戸琳派」を確立した酒井抱一、鈴木其一の作品と間近で向かいあう──。
山下:琳派は、狩野派のように血縁や師弟関係ではなく、まあ、いってみれば“勝手にマイブーム”になった人が継承してきたものなんです。
森口:勝手にマイブーム! ただ好きだから真似をしたというような?
山下:だから本阿弥光悦・俵屋宗達から尾形光琳、尾形光琳から酒井抱一までには、それぞれ約100年の間がある。100年経つと、「あっ、これだ」と思う人がちゃんと出てくる。それがすごい。
森口:鈴木其一の絵、とても大胆なのに上品で……すごく好きです。お部屋に飾りたいくらい。
山下:車1台分出せば相当いい作品が買えますよ(笑い)。琳派は光悦、宗達、光琳、抱一、其一と時代が近づくほど格が落ちると思われていましたが、最近は違う。海外のコレクターも熱心に集めていて、江戸琳派の評価はすごく高くなっています。
森口:間近で見ると細部にこだわりがあって……これはガラス越しではわかりませんね、すごい!
山下:この桜の葉、葉脈に金泥が使われているんです。さりげなく豪華で、憎い演出でしょう? 抱一ならではの上品さですね。
森口:お育ちの良さが作品からも伝わってきそう(笑い)。
山下:抱一は大名の次男で粋な遊び人、まさに当時の“セレブ”でしたからね。でも、抱一の没後、それまでは師匠に絶対服従だった其一が自分の絵を描き始めると、解放感からかぞっとするような凄みが出てくるんです。『朝顔図屏風』(メトロポリタン美術館)なんかもそうです。それもまた面白いですよ。
森口:ぜひとも見に行きたいです!
撮影■太田真三
※週刊ポスト2013年5月17日号