流通ジャーナリスト金子哲雄さんが亡くなってから半年が過ぎた。肺カルチノイドという難病と闘いながら最後の日々を綴った遺作『僕の死に方──エンディングダイアリー500日』出版にあたって、最終作業を行ったのは妻の稚子(わかこ)さんだ。
本は、原稿を書けば終わりというものではない。関係者への確認、事実関係の確認、膨大な校正作業がある。稚子さんは葬儀の3日後から、15日間、編集部の一室に缶詰になった。
「『稚ちゃんが悲しみすぎないように』と、金子が用意してくれた仕事だった気もします(笑い)。校正しなくてはいけないので、何度も読み返すんですが、そのたびに違う箇所で思いが甦って、涙が止まりませんでした。
金子との日々を、この作業で何度も追体験することになりました。編集部の部屋を借りていたので、声を出して泣くのは恥ずかしいと思いながら止まらなくて…。この15日間は、金子と一緒に過ごし直した、濃密な時間でした」(稚子さん・以下「」内同)
『僕の死に方』には、稚子さんによる心のこもったまえがきと、40ページ近いあとがきが載っている。
「何の準備もなく、考えないで書き始めたのですが、心と指先が切り離されたような感覚で文章が出てきました。金子に、書かされていたのかもしれません」
金子さんが選んだのは、病院ではなく自宅で迎える死=在宅死だった。本を作るにあたり、稚子さんがもっとも悩んだのが、自分が看取った“その時”を書くべきか否かだった。
「金子が自分の思いを伝えるために書いた本に、臨終の瞬間など、本人が知るよしもないことを、私が書き足してしまっていいのだろうか、と考え込んでしまいました。それで、在宅終末期医療でお世話になった先生がたにも相談したら、『そのことも情報としてお伝えできれば、今在宅医療を受けているなかで救われるかたがきっと大勢いらっしゃると思います』と言ってくださって」
在宅医療を受けているケースでは、患者本人だけでなく家族の不安も強い。どういう死を迎えるのか。「在宅死」はどんなものなのか。本当に、「在宅死」がいいことなのか。
「先生がたに言われて金子の最期を包み隠さず記すことで、同じ在宅医療のご家族のかたがたを勇気づけられるなら、金子も本望なんじゃないかと思い始めました。金子は、在庫ゼロを達成する売り手を評価していました。へんに残しておかないで全て書き、伝えることが、金子の望む“在庫ゼロ”なのじゃないかとも思いまして(笑い)」
※女性セブン2013年5月23日号