犯罪白書によると、この50年、女性の刑法犯罪者は全体の20%前後で推移している。この数字が示すとおり、“犯罪は男性が犯すもの”というイメージは間違いではない。しかし、件数が少ないからこそ、我々の記憶には「女性による犯罪」が強烈に刷り込まれている。
事件の現場を追ってきたジャーナリスト・江川紹子氏(54才)と作家・北原みのり氏(42才)に、女による事件について振り返ってもらった。
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江川:女性が起こした犯罪、特に殺人事件に焦点を当ててこの50年を振り返ったとき、私がいちばん重要だと思うのは、俗に『栃木の実父殺し』といわれる事件なんですね。
北原:どんな事件でしたっけ?
江川:事件が起きたのは1968年。14才のときから父親に陵辱され続け、父親の子供を5人産み(うちふたりが死亡)、その他にも6回妊娠中絶させられている。その女性が29才のときに勤めに出て初めて普通の生活を味わい、結婚したい相手も現れた。それを父親に打ち明けたんですが、父親は激怒して娘を監禁。思いあまって娘が父親を殺した、という経緯なんです。
北原:それはひどい…。
江川:裁判所も被告に大いに同情して、なるべく刑を軽くしてあげようとするんですが、起訴された罪名が“尊属殺人”だったために、なかなかうまくいかないんです。当時、日本の刑法には、親や祖父母など本人よりも先の世代の親族を殺害する尊属殺の重罰規定があり、死刑か無期懲役しかない。
執行猶予もつかない。それで最終的に、最高裁が尊属殺重罰規定を違憲とする判決を下します。この事件を機に、事実上、尊属殺が日本から消えるんですね。刑法から尊属殺が削除されたのは1995年なので、これよりずっと後なんですけれど、そう考えると、女性がかかわった戦後の犯罪史にとても大きな意味を持つ犯罪だと思います。
北原:私が忘れられないのは、1993年の『日野不倫OL放火殺人事件』です。
江川:ああ、覚えています。
北原:不倫相手の家に放火して子供を殺してしまったという事件そのものも衝撃的でしたけど、私がもっとも驚愕したのは、被害者夫婦が離婚せず、もとに戻ったことです。
江川:失った生活を取り戻そうとしたのか、事件後に、失った子供の数と同じ、2児をもうけましたね。
北原:浮気が発覚した後、妻から連日罵倒の電話がかかってきて心神衰弱したなど、かなり加害者に味方した報道も多かった。私もむしろその夫婦より、事件を起こした女性の気持ちが理解できました。女が引き起こす事件って、加害者に同情や共感を覚えたり、被害者に嫌悪を感じることがわりとあるんです。
※女性セブン2013年5月23日号