安倍自民党が昨年の総選挙で掲げたスローガン「日本を、取り戻す」。その真意は何か。安倍晋三首相が野党時代も含めて、過去10年間、新しい国作りについて本誌・SAPIOに語ってきた語録から振り返ってみる。ここでは日本人拉致問題・北朝鮮外交について紹介しよう。安倍首相は日本人拉致問題については北朝鮮側のペースに乗せられたり、工作活動に惑わされたりしてはいけないと警告している。
〈拉致問題は、被害者の方々、そのご家族のためにも早期に完全解決を図らなくてはならない。しかし、だからこそ焦ってはいけない。焦れば一部解決で終わってしまうのだ。この国を相手にする時、焦ったら負けなのである〉(2010年10月20日号)
その背景には、過去に日本が北朝鮮に対して行なった食糧支援が結果的に何ら成果をもたらさなかったことがある。
日本に限らず、アメリカをはじめとする各国が北朝鮮に約束を反故にされ、振り回されてきた。1994年のKEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)合意を破り、ウラン濃縮計画を進めたことはその象徴だ。2007年に6か国協議で北朝鮮に対する100万トンの重油提供を決定した後にも、核実験を行なった。韓国の太陽政策が完全な失敗に終わったことは火を見るよりも明らかだ。
それでもなお、各国は同じ過ちを繰り返そうとしている。今回の北朝鮮のミサイル発射騒動をめぐってケリー米国務長官が「米国は実現性のある真剣な非核化交渉の用意がある」と述べている。4月15日に行なわれたケリー氏との会談で安倍首相は、「彼らは約束はしても守らない。何度も裏切られたことは忘れてはいけない」とクギを刺したと伝えられている。
長年、日本人拉致問題に携わってきた安倍氏は、北朝鮮側の常套手段を間近で目撃してきた一人だ。
〈政治家に対しては野心をくすぐり、懐に入ることが実にうまい。国交正常化前の北朝鮮はいわば“未開の地”であり、彼らとの交渉に成功すれば、後世に名を残すことができる〉(2010年10月20日号)
そして金正日の死去、金正恩体制への移行を「チャンスが到来した」と述べていたことは注目に値する。
〈金総書記は拉致作戦の首謀者でありながら、2002年の小泉純一郎総理訪朝時に「5人生存、8人死亡以外の拉致被害者はいない」と断言した人物。最高指導者ゆえ彼の存命中にこの言葉を覆すのは難しく、拉致問題は暗礁に乗り上げていたが、後継者の金正恩ならばこの判断を「間違っていた」と変更することができる〉(2012年1月18日号)
しかし現実には、金正恩体制へ移行してから、日本政府との間で日本人拉致問題について進展はない。肝心の金正恩が軍部を掌握できているのかどうかも怪しい。不安定な体制で、息子が神格化された父親の政策を否定するのは非常にハードルが高い。安倍政権の外交手腕が試されるテーマだ。
※SAPIO2013年6月号