実は中国には親日派、知日派も少なくないが、表に出てくることはほとんどない。というのも一度“親日派”のレッテルを貼られると、半永久的に批判されることになるからだ。
日本への留学経験などがある“知日派”の中国人も多いが、彼らは今、親日派のレッテルを貼られないよう、こぞって“反日”をアピールしている。
習近平政権で外務大臣になった王毅氏は駐日大使を務めていた経験から、日本のメディアには知日派としての彼に期待する向きもある。だが、2007年に中国から日本に帰化した石平氏は次のように言う。
「それは大きな間違い。彼は親日派、知日派と見られないよう、日本に対してことさら厳しい態度をとるはずだ。彼はもともと日本専門だったが、外務大臣の目が出てきてからは“日本色”を払拭するのに懸命だった。1年前くらいからは、日本人の客人とは会わないようにしたといいます」
王氏は長年にわたる日本の専門家だが、「日本専門だと外交部内での出世が難しい」と周囲に漏らしていたこともあるという。彼は駐日大使時代からA級戦犯合祀を理由に靖国参拝を厳しく批判していたが、中国が参拝反対を言い出したのはA級戦犯の合祀から何年もあとのこと。日本通の王氏にとって、「中国は一貫して参拝に反対してきた」と主張するのは内心、かなり苦しかったのではないか。
庶民レベルでは、例えば日本に旅行に行って「サービスがよかった」「清潔で礼儀正しい国だった」というのはセーフだが、歴史問題で発言するのはNGだ。
「両親が南京出身なので調べてみたら、昔は教科書に南京大虐殺なんて載っていなかったし、30万人という数字も、親は“そんな話聞いたこともない。共産党のいうことだからアテにならない”と言って笑っていた。
釣魚島だって、昔の地図では日本領土として認めていたんだから、中国政府の主張には無理がある。だけど、仲のいい会社の同僚と飲んだ時にその話題に触れたら、相手が激怒して席を立ってしまった。『こんなことを周りに聞かれたら、お前、袋叩きにあうぞ』と忠告された」(北京在住中国人)
この中国人のように、自分(中国)に都合の悪い歴史的事実でも、それを冷静に受け止める“隠れ親日”も少なくない。だが、周囲にそれを漏らすのは危険だ。
※週刊ポスト2013年5月24日号