世界最大の陸軍を擁し、230万人の兵士を抱える人民解放軍。しかし、内部では腐敗が蔓延するなど、その扱いは中国指導部にとっても最も大きな課題となっている。ジャーナリストの富坂聰氏がレポートする。
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習近平体制は今後の人民解放軍の行方を左右する重大な事件の判決を控えている。
事件そのものは昨年1月の胡錦濤体制下で起きた。軍用地や兵舎などの兵站を担当する総後勤部副部長の谷俊山中将が軍用地を転売した疑いで解任され、規律検査委員会に拘束されたのだ。転売した資産の評価額は約20億元(約260億円)に上るとの報道もある。
腐敗撲滅を掲げ、「虎もハエも叩く」と言い放った習近平が谷中将を厳罰に処せるかどうかに注目が集まっている。強大な影響力を持つ陸軍ではこれまで死刑になった者がいない。
しかし、過去の判例と比較すれば、ここで死刑にできなければ一般民衆だけでなく末端兵士の不満は爆発し、習近平体制は一気に危うくなる可能性がある。
習近平にしてみれば、軍上層部の抵抗も怖いが、放置しておくのはもっと怖いという背に腹は代えられない状況だ。私は習近平が覚悟を決めてこれから軍の大粛清に動く可能性が高いと見ている。
最近、習近平は「戦いに勝つ強い軍をつくる」などと強硬発言を繰り返している。それを日本のメディアは人民解放軍への依存を強め、軍を擁護していると報じたが、その指摘は間違っている。
実際は逆で、そのような発言をせねばならないほど、人民解放軍は腐敗、堕落し、このままだと機能しなくなるレベルに達しているのだ。
※SAPIO2013年6月号