アイドルといえば芸能事務所がスカウトやオーディションで人材を発掘し、テレビで売り出して人気を獲得していくものだった。しかし、そのプロセスが変わりつつある。キーワードは「週末」だという。
4月20日の土曜日、新宿御苑で首相主催の「桜を見る会」が開かれた。1万人の招待客の中で一際注目を集めたのが5人組アイドル・ももいろクローバーZである。首相と一緒にポーズを決める姿が大きく報じられた。1週間前の週末には西武ドームでのライブに2日間で6万人を動員した彼女たちのキャッチフレーズは「週末ヒロイン」だ。どういう意味なのか。マネージャーの川上アキラ氏が説明する。
「2008年の結成当時は全員が学校に通っていたし、関東以外に住むメンバーもいたので平日は活動できませんでした。そこで週末に代々木公園のけやき並木で路上パフォーマンスをやるところからスタートしたのです」
週末しか活動しないから「週末ヒロイン」というわけだ。当時は無名グループの無料ライブで、写真や動画撮影も認められるスタイル。そうした週末ライブや夏休み期間を利用したワゴン車移動の列島縦断無料ライブツアーなどを続け、口コミやネット上で支持を拡大していった。
1970~1980年代の10代女性アイドルの中にも学校に通いながら芸能活動をする者はいたが、平日に活動が可能なように出席日数の制約が厳しくない学校に通うのが一般的だった。しかし、実際に「週末のみの活動」でトップアイドルに昇りつめる新しい流れが生まれている。
最大の要因はインターネットだ。ネットを使えば極端な話、芸能事務所に所属しなくても空いた時間に個人で発信できる。平日に学校や仕事があっても、週末にコンテンツを配信し、評価されれば人気が広がる。実際にそうした過程でアイドルが次々と生まれている。
4月14日の日曜日、東京FMホールでのアイドルイベントに出演したなあ坊豆腐@那奈(以下、那奈)。約300人収容の会場に登場すると観客は一斉に声援を送り、蛍光色のペンライトを振る。こうした舞台に立つきっかけは2年前、自分がダンスする映像を動画投稿サイト・ニコニコ動画の生放送で配信したことだった。当時は高校2年生だったが、8.5頭身というスタイルと新体操で培った体の柔らかさを活かした踊りが話題となり、コミュニティの参加者(定期的に視聴するメンバー)は1か月で1万人を超えた。
「自宅のリビングで撮っただけの映像なのに、たくさんの人が見ているのが本当に信じられませんでした」
本人はそう振り返る。その後も週末を中心に撮影した動画をアップし、4か月後にはキー局の番組で紹介され、その後事務所からデビューが決まった。
「高校生だったので事務所も学校を優先させてくれて、毎週末ライブ活動を続けてきました。4月からは大学生なので両立はもう少し楽なのかなと思います」(那奈)
平日は会社員というスタイルもある。同じくニコニコ動画にダンス映像を投稿し人気となったあぷりこっと*は、平日はアパレル企業に勤務し、週末にライブイベントなどに出演。動画の再生回数は多いもので36万回を超える。彼女の生活はどのようなものか。
「平日は9時半に出社してパソコンに向かい、残業もあります。土日はイベントで歌って踊る生活で、時間は全然足りません(笑)。ただ、ありがたいことにファンの方もいるし、会社の人たちも応援してくれています。ブログやツイッターで活動を告知しながらこの生活を続けたい」
誰でもアイドルを目指せる時代ということだが、この2人のようにファンが定着するのは稀だ。アイドルイベントと称するものは数多あり、「毎週末に出演し続けてもギャラが月に数千円もらえればいいほう」(イベント関係者)というから、大多数は「平日も働かないと食えない」のが本音という一面もある。
※SAPIO2013年6月号