家庭用収納ケースやペット用品など、ホームセンターの人気商品で知られるアイリスオーヤマが家電分野に参入して4年。大手の隙間を縫って放つ商品がヒットを連発。2012年3月に発売された『サイクロンクリーナー コンパクト超吸引毛取りヘッド』は20万台を売り上げた。後発でありながら、なぜヒットするのか。その秘密に迫る。
アイリスオーヤマの社員にはパソコンが支給されていない。どうしても必要な時は、1回45分間を上限に共用のパソコンスペースを利用する。メールやホームページの閲覧に時間を割くよりも、新商品のアイデア捻出のためのミーティングに多く費やすようにするためだ。
毎週月曜日に大山健太郎社長ほか役員が居並ぶ中で行なわれる商品企画提案会議には、毎回70件を超える提案がなされ、そこから新商品として販売される数は年間1000点を超える。
中でも家電事業は、人感センサー付きのLED照明や、配管工事不要の2口IHクッキングヒーターの大ヒットで同社の柱に成長してきている。
「商品開発のテーマは『大手の隙間をつけ』です」と語るのは家電開発部のマネージャー原英克。
「隙間を埋めるヒントは、ユーザーの不満を徹底的に分析した結果、もたらされます。私たちは当該商品を実際に使って、ユーザーの不満が理にかなったものか体感し、新たな企画を考えるのです。『商品開発者は使用者であれ』ということを常に意識しています」
同社は日本全国のホームセンターを中心に女性社員を接客販売スタッフとして約500名も派遣している。彼女らは接客中にユーザーから寄せられた意見を報告書にまとめて本社に送信するのが日課となっている。
2012年3月に発売され、20万台売り上げた『サイクロンクリーナー コンパクト超吸引毛取りヘッド』もこうした現場の声にヒントを得た商品だ。
2011年10月。報告書に目を通していた原は、人気のサイクロン掃除機に対し消費者の不満が多いことに気がついた。
「吸引力は高いが、ヘッドの回転ブラシに髪の毛やペットの毛が絡みやすく、絡むと吸引力が格段に低下してしまう」「サイズが大きく重い」などというものだ。
原は、すぐさま家電量販店で売れ筋のサイクロン掃除機を購入し、自宅で掃除を繰り返した。すると、最初は強力な吸引力が数日後には確実に落ちているのがわかった。
「ヘッドの回転ブラシに髪が絡んでいたことが原因でした。ペットを飼っている家庭ならペットの毛でも吸引力は低下すると思います」
原は、さらに詳細な分析を加えた。掃除機は吸引力の強さを「吸込仕事率」として数値化している。だが、その数値は、ホースを繋がない状態の吸引力を示しているに過ぎなかった。
実際には、ホースを繋がなければ掃除はできないのだが、そうすると「吸込仕事率」の数値はぐっと低くなった。
また各社が採用している回転ブラシは、髪の毛やペットの毛が絡みやすく、結果、回転が損なわれ、吸引力をさらに低下させていることもわかった。
「多くのサイクロン掃除機はパワーをもて余している。実際にはもっと小さなパワーでも十分なはずだ」
原は数日後、これらの結果をまとめた上で、髪の毛やペットの毛が絡まないヘッドを組み合わせた軽量コンパクトなサイクロン掃除機の企画を練り上げた。
スペックとしての「吸込仕事率」は低くても、実際のパフォーマンスでは上をいく軽量の掃除機を目指したのだ。
「幸い、当社にはペット事業で人気のあった往復式エチケットブラシの『抜け毛取りクリーナー』があって、毛取りのノウハウがありました。特殊な形状の往復式ブラシで床やソファーをなでるようにして毛をすくい取り、クリーナー内部に溜め置ける方式です」
■取材・構成/中沢雄二
※週刊ポスト2013年5月24日号