テレビ番組でカメラに映っているときとそうでないときに、タレントというのはオンとオフで切り替わる。ところが、なかにはその違いがない人もいたと、『王様のブランチ』の書籍コーナーでコメンテーターとして出演していた頃の思い出を、松田哲夫氏が振り返った。
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ぼくは、1996年4月からTBS系テレビの情報バラエティ番組『王様のブランチ』にほぼ毎週出演していた。華やかなタレントたちに混じっての出演は、途中一年間のブランクを挟んで2009年9月まで続いた。
とはいえ、初めのころはタレントたちとは、まったく交流がなかった。本のコーナーの15分だけ出て、あとは帰ってしまう、年齢的にもずっと年上のぼくは、彼らには別世界の人だと感じられたのだろう。ぼくの方も、どういう風につきあえばいいかわからない。だから、挨拶をかわす以上には親しくならなかった。
ところが、そういうぼくに対して、なんのてらいもなくまっすぐに話しかけてきた人がいた。神田うのさんだ。それまでは、彼女についての印象は、「よくしゃべる人だなあ」という程度のものだったので、この気づかいには驚いた。おかげで、他のタレントたちとも自然に会話できるようになった。
ところで、タレントの多くは、カメラに映っているときとVTRやCFが流れているときで、オンとオフを切り替える。VTRに出てくる胡散臭い人物に思いっ切り鋭い突っ込みを入れていても、スタジオにおりると、悪口などケロッと忘れたような顔をしている。「さすがプロ」だと思った。ところが、うのさんだけは違っていた。自分の言葉で、自分の言いたいことを、どんな状況でも言う。オンとオフの違いがないのだ。
たとえば、「台風○号が近づいています」というニュースが流れたとき、「ワクワクしちゃう」と口走って、抗議電話が殺到した。もちろん、被害にあう人たちもいるので、公的には不謹慎な発言だ。でも、台風や大雪など非日常的な状況になるときには、誰しもがどこかでワクワクするではないか。
●松田哲夫(まつだ・てつお)/編集者(元筑摩書房専務取締役)。書評家。1947年東京生まれ。東京都立大学中退。1970年、筑摩書房に入社し、400冊以上の書籍を編集する。浅田彰『逃走論』、赤瀬川源平『老人力』などの話題作を編集。1996年からTBS系テレビ『王様のブランチ』・書籍コーナーのコメンテーターを12年半務めた。著書に『編集狂時代』『印刷に恋して』『「王様のブランチ」のブックガイド200』など。
※週刊ポスト2013年5月24日号