育児を積極的に行う男性、いわゆる“イクメン”がもてはやされたのは2010年以降のこと。流行語大賞のトップ10入りを果たし、いまや育児休暇を取る男性が増えたとの調査も数多い。
だが、その実態を含めてイクメンブームの真価が問われるときがきた。安倍首相が打ち出した「3年間抱っこし放題(育児休暇を3年まで延長)」プランに賛否両論が沸き起こり、これまで以上に男性の育児休業取得の促進が叫ばれているからだ。
自らシングルファーザーとして2人の子育てをした経験者ですら、制度ありきで加熱するイクメンブームには首を捻る。ニッセイ基礎研究所の主任研究員、土堤内昭雄氏(社会研究部門)である。
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――男性、女性にかかわらず、「3年育児休業」に反対している理由は。
土堤内:よく言われるように、企業におけるビジネスツールやスキルの変化が激しい中、3年も育児休業(育休)をすると働く人のキャリアにとってマイナスで、復職が厳しいと思われるからです。企業は経済合理性で動いているわけだから、コストパフォーマンスの悪い人に給料を払うことはあり得ないし、それを無理やり制度的に進めても、必ずどこかに不満や歪みが生まれます。
――確かに3年は長過ぎるとの声は多い。
土堤内:国は「待機児童」の問題も抱えているので、在宅育児率が高まれば事業所の整備遅れも解消できると思っているのかもしれません。でも、子供の成長・発達にとって乳幼児から保育所などで集団保育を受けさせることは大切で、社会性を養う意味でも大事なこと。それは家で子供を育てる環境があろうがなかろうが同じことが言えます。
――森雅子少子化・消費者担当相は、消費者庁の職員に対して育休を取得した場合にプラス評価するような人事評価制度をぶち上げ、物議を醸している。
土堤内:もちろん意識を変えるには制度的な後押しは必要かもしれません。でも、“育自”のメリットを伝えないまま、単に育休を取れば誰でも昇進・出世できますと形だけ整えてインセンティブを与えても、周りの賛同だって得られないはずです。
――「育児」ではなく、「育自」。その意味は?
土堤内:子育てによって親も鍛えられるという意味です。ビジネスの感覚では分からないような価値観を身につけると、新しい発想が生まれたり新商品の開発に繋がったりもします。例えば家電メーカーでいくら生活家電を開発する優秀な技術者だとしても、生活体験がなければ消費者のニーズは汲み取れません。つまり、人材のダイバーシティー(多様性)に寄与するからこそ、育児体験を持った人が高く評価されてしかるべきなのです。
――そう考えると、男性でも育休を取れば、それまでと違った能力を仕事で発揮することもできる。
土堤内:そうですね。仕事だけに軸足を置くのではなく、生活全般が成り立つような形で男性がワーク・ライフ・バランスを図れる社会が来れば理想的です。ただ、現状は男性の子育て時間は1日平均25分で、女性の3時間3分と比べると圧倒的に少ない。相変わらず女性偏重の育児の実態があります。
――これだけイクメンブームでも実態は伴わない。
土堤内:男の育児というけれど、実際には「いいとこどり」で、週末に子供と遊んだり、暇なときに子供をお風呂に入れたりするだけの、間接的なサポートにとどまっています。それも仕方のないことです。男女の賃金格差が埋まらなければ、経済的に有利な男性が働き続けて女性が育児休暇を取ったほうが、経済合理性にもかなっているのですから。それなのに、女性の育児ばかりが大変だと言われて、男性は「やらされる子育て」に悩んでいる。
――こんな調子では、3年育児、男性の積極参加は進まない。
土堤内:育休規定は30人以上の事業所の実に9割近くが整備されていますが、男性の取得率は女性の91.2%に比べて1.06%と極端に低い。制度はあってもそれを活用できないでいるのです。国はどんな企業でも誰でも3年といわずに1年の育休を確実に取れるような支援を先にすべきなのです。
――正規社員のワークシェアリングや短時間勤務の体制も整えるべきでは?
土堤内:仕事と子育ての両立だけではありません。最近は介護離職者が増えて、こちらは若い社員ではなく男性の管理職が多く該当しています。介護は子育てと違って3年では済まずにエンドレスの問題。こうした働き方を見直さざるを得ない男女に対し、いかに両立して働き続けられる勤務制度を企業が提示できるか。それを早急に整備しなければ、企業は真の「成長戦略」を描けないと思います。