政府関係者の強硬発言やメディアの厳しい対日批判、ネット上に溢れる罵詈雑言……日本にいると、中国国内は「反日」で一枚岩になっているように見える。だが、表には出てこないが、実は親日派、知日派の中国人も少なくないという。北京在住の中国人ジャーナリストが声をひそめる。
「日本を客観的にとらえ、日本にも良いところ、参考になる点がたくさんあると考えている人は中国にもたくさんいる。改革開放の30年の間で、経済貿易、文化、科学技術などの面で、中国に最も影響を与えた国のひとつは、間違いなく日本だった。密接な交流を通じて日本のよさに触れて、日本に好感を持っている人だって多い。でも、今はそんなこと、口が裂けても言えないよ」
彼らが声を出せないのは、“親日派”と見なされた人物は激しいバッシングの嵐にさらされるからにほかならない。
胡錦濤・前国家主席の側近だった汪洋・副首相は4月16日、北京を訪れた河野洋平・元衆議院議長と会談し、「経済大国である日中両国は、どんなことがあっても経済関係を深めるべき」と発言した。中国メディアは一切報じなかったが、日本の新聞に掲載された記事が中国語に翻訳されてネット上に流れると、汪氏の発言に対して罵詈雑言が飛び交った。
日中戦争中に和平工作をはかり、親日的な政権を樹立した汪兆銘と名字が同じことから、なかには「汪兆銘の息子は切腹しろ!」といった卑劣な書き込みまであった。
汪氏はごく当たり前のことを言っただけのように思えるのだが、中国では日本を批判しなければ親日と見なされ、売国奴扱いされるのが現状なのである。
「そして一度“親日派”のレッテルを貼られると、ネット上で漢奸(売国奴)としてリストアップされ、半永久的に批判されることになります」(北京特派員)
※週刊ポスト2013年5月24日号