アベノミクス効果による円高是正も奏功し、業績回復に沸く自動車メーカー。その中でも絶好調なのが「スバル」ブランドで知られる富士重工業だ。
2013年3月期の連結売上高(1兆9130億円)、営業利益(1204億円)ともに過去最高を更新。純利益(1195億円)に至っては、前期比で3倍以上を稼ぎ出すなど、その“快走ぶり”は際立っている。
ジャーナリストの福田俊之氏が富士重工の強さの秘密を解説する。
「世界販売台数こそ72万4000台と国内乗用車メーカーの中でも最小ですが、純利益はトヨタ、ホンダ、日産に次ぎ4位。高い収益基盤を支えているのは、世界販売の約半分を占めるアメリカでの人気です。『レガシィ』や『フォレスター』など主力車には根強いファンが多く、日本国内でも熱烈なスバルファンのことを“スバリスト”と俗称で呼んだりします」
スバル車の米国販売台数は、2007年度に18万7000台だったのが、2013年度は35万8000台とほぼ倍になった。今年5月にスバルの主力モデル『インプレッサ』が千葉県内で相次いで盗まれる事件が起きたのも、海外で人気のスバル車ゆえ。警察は国内外で転売目的の可能性が高いとみている。
では、アメリカを中心に海外でスバリストが急増している理由は何なのか。前出の福田氏は技術力の高さを第一に挙げる。
「富士重工の前身は軍用機を作っていた『中島飛行機』。航空機で培った技術力を武器に、世界初の四輪駆動乗用車をつくったり、軽量で耐久性の高い水平対向エンジンを搭載したりするなど、数々の独自技術で“走り”にこだわりを持ってきました。2010年には自動ブレーキで事故リスクを減らす安全装置『アイサイト』を既存車種に続々と搭載し、“ぶつからない車”として世界中で高い評価を得ています」
昨年、中央自動車道・笹子トンネルで起きた天井崩落事故では、現場に居合わせたNHKの記者がインプレッサに乗っていて奇跡的に脱出した。もちろん、助かったのは偶然の結果に過ぎないのだが、ネット上では「ボディ剛性と加速性能がよかったからでは? さすが走りのスバル!」と称賛する声も上がるほど、同社の技術力には定評がある。
ただ、安全性能の向上だけが世界販売を押し上げている要因ではない。かつて日本市場向けから、アメリカのユーザーを意識したクルマづくりへとシフトしたことが寄与したという。経済誌『月刊BOSS』記者の児玉智浩氏が話す。
「例えば2009年から発売している現行のレガシィは、サイズを北米市場向けに合わせています。室内を広くして、車体全体のデザインもアメリカ人が好む大胆なテイストに変更した結果、シェアが伸び続けています。アメリカで受けるものはロシアや中国、オーストラリアの市場でも受ける。思い切ってグローバル仕様にしたことで、トータルの販売台数を底上げしているのです」
さらに、アメリカでは「SUBARU」ブランドを広めるマーケティングにも力を入れてきた。
「2007年から『LOVEキャンペーン』を展開し、レガシィやフォレスターなどスバル車に乗るユーザーがクルマについて書き込めるウェブサイトを開設しました。いわば『スバル愛』をテーマに、ファン同士が共有できるPR作戦で、一気に認知度が高まりました」(前出・児玉氏)
今後、富士重工はアメリカのユーザーにいち早くクルマを届けるべく、米国生産子会社の生産能力を増強する方針だという。だが、日本メーカーとしての誇りは保ったままだ。国内生産は今も昔も変わらず75%超。高い技術力と着実な収益性で円高不況時代を乗り越えてきた。そうした経営スタイルも、スバリストのみならず業界内から一目を置かれる理由なのかもしれない。