中国人の汚職事件はいまや枚挙にいとまがないが、「日本人」が告発したケースとなると多くはないだろう。中国の情勢に詳しいジャーナリスト・富坂聰氏がレポートする。
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中国で大きな話題を呼んだ汚職官僚の失脚をめぐって、いま一人の「日本人女性」が注目を浴びている。なぜなのか。
「事件に絡んで失脚したのは大物経済官僚の劉鉄男という人物ですが、実はこの人物を最初にネット上で告発したとされるのが、彼の元愛人である日本人女性だったというのです。いったいそれは誰なのか、瞬く間にネットの話題を独占してしまったほどでした」(元国務院)
今回〝落馬〟した大物官僚の劉鉄男とは国家発展改革委員会(以下、発改委)の副主任という重要ポストにいた人物で、日本大使館で経済担当参事官を務めていたこともある。中国でこの話題がより強い注目を集めるのは、発改委という組織が中国社会において特別大きな権力を持つ組織と考えられているからだ。というのも、いまや投資が成長の牽引車となった中国経済において、大規模な公共事業の生殺与奪権を一手に握っていると考えられているのがこの発改委なのである。
「発改委の同意があれば銀行は100%融資に応じます。逆にすべての要件を満たし、銀行も融資に応じていても、発改委がへそを曲げればすべてが水泡に帰すということだって考えられるのですから、その権力は想像を絶するレベルです。もちろん付け届けや賄賂の額も、他の経済官僚たちとは桁違いだとも言われています」(同前)
そのスーパー官庁の副主任にかけられた疑惑は、2011年にカナダで起きたある事件に関する融資をめぐる不正である。中国系実業家に対する融資の口利きをしたとされるのだが、その額がなんと2億ドルだというから驚かされる。
ただ、これくらいの大物であれば「2億ドルの融資程度でいちいち驚く方がおかしい」(同前)レベルだというから中国の腐敗のレベルが知れるというものだ。
そして問題の告発女性についてだが、現在のところ分かっているのは、劉とは1996年から1999年の間に親しくなった「徐」という女性であるということだ。
名前からすると中国系なのだろう。中国では日本人と報じられているが、日本在住の中国人の可能性もある。ネットには2人のツーショット写真も掲載されているが、その写真のバックは「第2回日中経済学術交流会議 1998年名古屋」との看板も掲げられている。写真のキャプションによれば二人は、経済官僚と研究者という立場で知り合っているという。そしてその後、親しくなった二人は劉がダミー会社の設立し、徐を社長に据えようとするほどの関係になっていたという。
カナダの経済事件にからんだ中国の大物官僚が、日本の愛人の告発で〝落馬〟したとは何とも時代を感じる話である。