中国の著名な映画監督、張芸謀(チャン・イーモウ)に7人の子どもがいるとの疑惑が持ち上がり、大きな話題になっているが、疑惑摘発の背後には習近平・国家主席がいるとの可能性が浮上している。
習主席は常々、毛沢東主席を礼賛しているが、張芸謀の作品には毛主席が発動した文化大革命を否定的に描いた作品が多く、一人っ子政策遵守とともに、思想引き締めの意味合いもあり、張芸謀をスケープゴートにしたとの説がネット上で流れている。
張芸謀に7人の子説は5月9日、あまりにお唐突に報じられた。報じたのは日ごろお堅いニュースばかりを流している中国国営の新華社通信。しかも中国の当代一の映画監督のスキャンダルであり、いわばスクープの割には、わずか20行ほどのベタ記事扱いだったことも不思議だ。
しかし、この新華社の報道に中国の国内メディアばかりでなく、米紙「ニューヨーク・タイムズ」や日本のメディアも後追いし、「張芸謀監督に子ども7人、罰金2600万ドル(約26億円)」との見出しで大々的に報じた。
この報道を受けて、張芸謀の妻が住んでいるという江蘇省無錫市政府は新華社電の報道を認め、当局が現在、その容疑事実を調べていることを明らかにした。
中国は1970年代から一人っ子政府を採用しており、都市部の夫婦は原則的に一人しか子どもを持つことができないことになっている。二人目からは罰金を支払わなければならず、しかも罰金は夫妻の所得によって増えてくる仕組みだ。この26億円という張芸謀への罰金も尋常でないが、張芸謀の資産からみれば、それなりの根拠のある額なのだろう。
問題は7人の子どもや2600万ドルという具体的な数字はどこから出てきたのかということだろう。常識的に考えれば、無錫市政府や浙江省政府が、新華社にリークしたというところだろう。
ネット上では、習近平国家主席がその背後にいるのではないかとの指摘も出ている。その根拠として、次のようなエピソードが挙げられている。
習主席は2007年、当時のクラーク・ランド駐中国米大使に対して、「米国の戦争映画は正邪、善悪がはっきりしていて、大変に好きで、よく見ている。それに比べて、中国の張芸謀監督がつくった『王妃の紋章』は故宮(皇宮)のなかだけのつまらない作品だ。中国の映画監督のなかには、彼らが宣揚すべき価値観観を無視している者もいる」と述べて、張芸謀を酷評したというのだ。これは内部告発サイト、ウィキリークスが米外交文書を根拠にして伝えたものだけに、事実の信憑性は高いとみられる。
しかも、張芸謀の作品のなかには、文革や毛沢東を否定するような内容の作品が少なくないのも、「習主席黒幕説」を裏付ける。中国問題に詳しく、『習近平の正体』(小学館刊)の著書もあるジャーナリストの相馬勝氏はこう分析する。
「中国では習近平体制に入って、思想の引き締めが厳しくなっている。民主化や共産党の歴史的誤り、司法の独立など大学生に教えてはならない7つの項目を通達したり、民衆の権利などに関する出版物の発行禁止を指示している。張芸謀監督の作品のなかには思想的に開明的で、中国内で公開禁止になっているものもあり、一人っ子政策にかこつけて狙い撃ちにされたのではないか」