安倍政権による憲法改正に向けた動きに対して、様々な議論が起きている。ノンフィクション作家で『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞している吉永みち子さん(63才)は、このように考えている。
「憲法のもと、少なくとも公式には戦争で外国の人たちをひとりも殺さないできたということは、日本が世界に誇れることです。第9条は日本の最後のアイデンティティーなんです。
これまで護憲派は、“子供を戦場に送るな”といった感情論のみで9条を語っていました。でもそれだけでは“敵が攻めてきたらどうする。殺されますよ”という声に対抗できません。その結果が、今日のなしくずし的な憲法解釈の変更や改憲の嵐につながっているのです。理想を貫くのは大変なこと。でも、それは“母として”“女性として”といった情では、守りきれません。
公民権運動に尽力したアメリカのキング牧師やキューバの革命家・ゲバラだって、単なる理想といわれたことを貫き通しました。理想の旗を現実にそぐわないと下ろすのではなく、理想として掲げ続け、現実を理想に近づける努力が大切なんだと思います」
本当に必要で、それがよりよい方向に向かう改憲であれば否定しないが、自民党の草案は、立脚点が違うと指摘。
「現憲法は国家権力の暴走を縛るものなのに、改憲の草案は、『家族は、互いに助け合わなければいけない』と家族の在り方を義務化しているなど、国民を縛るものに変わっている。96条改正の先には、前文と9条を見据えている。後で『あ、しまった!』と思ったときの代償が大きすぎます」
※女性セブン2013年5月30日号