「全員野球で挑もう」──。これが、反体制派の合い言葉だった。院政を敷くトップ4人の守旧派を退かせるために、その他の役員全員で決起する、という意味である。
5月14日に発表されたシャープの経営刷新人事は衝撃を与えた。片山幹雄会長と奥田隆司社長が就任わずか1年で同時に退任するという極めて異例の人事だったからだ。
しかし、この人事こそ、反体制派の“悲願”だったのである。内実を知るシャープ関係者がいう。
「人事発表と同日に、3月期の決算が公表されましたが、5000億円を超える赤字だった。現体制のままではシャープが潰れる、そう考えて会長と社長に退いてもらうような動きが社内にあった。
中心となったのは、今回の人事で社長に昇格した高橋興三副社長、専務執行役員の大西徹夫氏、常務執行役員の藤本俊彦氏です」
昨年4月に、赤字経営の責任をとって片山氏が社長を退いて会長に、奥田氏が社長に就任した。その直後から、反体制派の動きは始まっていたという。
「赤字の責任をとって退任したはずの片山氏が、経営の一線に居座り続ける。さらに問題なのは、片山氏の前任社長の町田勝彦氏が相談役として、さらにその前任である辻晴雄氏が特別顧問として、取締役会での影響力を持ち続けたままだった。
現場が経営再建のために動こうとしても、口を出してくる。奥田さんは先輩の3人に逆らえないので、現場で決まったはずのことが、3人の意見でひっくり返ったことが何度もあった。奥田さんの求心力は低下していくばかりで、ここは奥田さんにも犠牲になってもらって、4人とも退いてもらうという選択肢しか残っていなかった」(シャープ関係者)
シャープの経営は「3頭体制」といわれてきた。代表権を持たない辻氏、町田氏、片山氏が院政を敷き、経営方針に影響力を保ってきたからだ。
辻氏、町田氏、片山氏は、液晶技術の開発に成功し、シャープをグローバル企業に押し上げた功労者でもある。しかし、いまや液晶事業は全社の赤字額の9割強を占める。
その3人が、現場の再建方針に耳を傾けず、「液晶のオンリーワン戦略」を継続しようとしたことに対する現場の危機感は頂点に達していた。
反体制派は、何度も退任を進言したが、返ってくる言葉は、「なぜ俺たちが辞めなければいけないんだ」だけだったという。
※週刊ポスト2013年5月31日号