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長嶋茂雄が子供や女性など立場の弱い者に優しかった理屈とは

 多摩川グラウンドといえば、1985年まで巨人が二軍練習場として使用していた伝説の場所である。1961年から1974年のV9時代を築いた名選手たちはこの場所で鍛え上げられた。そして、その場所は選手だけでなく、野球ファンが育つ場所でもあった。
 
 かつてのプロ野球界を彩った大スターのなかから、長嶋茂雄氏と多摩川グラウンドの関わりについて、スポーツライターの永谷修氏が綴る。

 * * *
 長嶋茂雄が聖地に立った。9日、「多摩川グラウンド」で巨人の二軍練習を視察した。

「ここは昔も綺麗だった。今も、少しも変わらないね」

 かつての多摩川グラウンドは、ファンが集まる土手と選手の距離が近く、声をかけると選手が気軽に答えてくれた。その代表格が長嶋だった。野球少年だった私が友人と平日に練習を見に行くと、

「おやっ、今日はどうしたの。学校をサボって遊びに来てはいけませんね」

 と、ウインクをして言った。“今日は小学校の創立記念日で休みです”と話すと、

「そうか、年1回あるからね」

 と“長嶋節”で答え、頭を撫でてくれた。

 長嶋は子供や女性など、立場の弱い者に特に優しかった。本人は意識してやっているかどうかわからない面があったが、嫌味は全くなかった。

「女の子は子供を産む。その子は将来野球ファンになるから、大切にしなければいけない」と妙な理屈をこねまわしていたが、実際に長嶋が気さくに話しかけてくれるから、女性がグラウンドに来やすい雰囲気ができた。そこから選手と結婚する例もあり、「多摩川ギャル」なる言葉も生まれた(その第一号は、王貞治の妻・恭子さんだといわれている)。

■永谷修(ながたに・おさむ)/1946年、東京都生まれ。著書に『監督論』(廣済堂文庫)、『佐藤義則 一流の育て方』(徳間書店)ほか。

※週刊ポスト2013年5月31日号

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