近ごろは、円安の進行と株高がすすみ、景気は回復基調が続いているとばかり報じられている。直前の円相場、株の様子と比べて上がった下がったと一喜一憂するこの様子について、ジャーナリストの長谷川幸洋氏は、もっと長い目でみるべきではないかと提案する。
* * *
円安が一段と加速している。
東京市場では5月13日に一時、1ドル=102円台をつけた。この相場水準について、新聞はじめメディアは当然のように円安と評価して「円安の明暗」といった切り口が大流行だ。たとえば、見出しだけ拾えば「円安功罪」(毎日新聞、5月11日付)とか「円安劇薬」(朝日新聞、同)といった具合である。
だが、根本的な疑問がある。それは「いったい、いつと比較して円安なのか」という問題だ。たとえば昨日の相場と比較して円の値打ちが下がっているなら円安、あるいは3日前と比べて値下がりなら円安、というのが一般的な受け止め方だろう。
だが、景気に対する為替相場の影響を議論するなら、1日や3日前の相場と比較しても、ほとんど意味はない。それは直感で分かるだろう。企業や家計の行動はそんな短い期間の比較で決まっているわけではないからだ。
意味がある比較の期間は、もう少し長い。まず2012年末の水準はどうだったか。1ドル=86円台だったから、それと比べれば円安には違いない。
だが、2007年末はどうかといえば113円台だった。同様に2006年末は118円台、2005年末は117円台である。つまり102円という水準は2007年末以前と比べれば、まったく円安とはいえず、まだ非常に高い円高である。
同じ議論は株式相場についても言える。2012年末の東証株価指数(TOPIX)は859だった。13日現在は1232である。だから、昨年末に比べれば株高だ。だが、リーマン以前の2006年末に比べてどうかといえば、当時は1681だったから、まだ株価が回復したとはいえない。
私はいまの円安株高は基本的にリーマン以前の水準に戻る途中経過とみる。円安なら原油をはじめとして輸入品の値段が上がるので、コストが上がる品物もあるだろう。だからといって全体として経済にマイナスかといえば、いまより株価が高く、名目GDPも高かった2006年前後の水準のほうがましではないか。
※週刊ポスト2013年5月31日号