数多くのドラマ、映画、舞台に出演。クールな二枚目、コミカルな三枚目、エキセントリックなドラッグクイーン役など、どんな役も独特の深みをもって表現する俳優・近藤正臣。「大奥 第一章」(6月大阪松竹座、7月博多座)に出演する近藤の、独特のキャラクター造形の方法について、時代劇研究家の春日太一氏がせまった。
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近藤正臣といえば、1970~1980年代は「二枚目」俳優の代名詞でもあった。といって、昨今の「イケメン」のようにビジュアルだけで勝負することはなく、口調から細かい動作まで丁寧に作り込みながら「二枚目」を演じていたように思える。
特にキスシーンは、その真骨頂かもしれない。日本の俳優は不器用なのか照れ性なのか、キスシーンになるとどこか硬さが見られる。が、近藤のそれには、欧米映画さながらのロマンティックな雰囲気が漂っていた。
「フランス映画の雰囲気で演技することは、自覚しています。ジャン・ギャバンにリノ・ヴァンチュラにアラン・ドロン。ジャン・ギャバンのパンの喰い方なんかは、憧れました。
ラブシーンにしても、洋画のテキストからいろいろといただいたりしています。テレビドラマでラブシーンする時でも、そういう映画を参考にしながら、『この俳優ならキスするより先に髪を触るんだろうな』とか。そういう細かなことを考えていくんです。日本人はそういうことは、あまりやらないんですよ」
近藤正臣は芝居のアイディアを考え、工夫を重ねて役に臨む。そこには、台本に書かれたことだけでは納得しきれない、役柄へのこだわりが込められている。
「台本の台詞は人が書いたもので、俺の言葉じゃない。台本にごっついエエ人に書かれても、こっちはちょっと意地悪したいこともあるんです。それで、言葉を変えられへんのやったら、ニュアンスを変えよう、と。
本当は役者ってのは、台本に与えられた素材の中で役を生きればいいわけです。でも、それだけじゃ納得できないことがある。このキャラクターがここでそんな不用意なことをするか、こんなにイージーな言葉を吐くか、というところでね。この素材じゃあ、生きられないということは、どうしても出てくる。
ですから、台本を徹底的に読んで行間を拡げていきながら、アイディアを見つけていくんです。こいつは古風な男だから腕時計やなしに懐中時計を使わせよう、とか。そんなことだけでも、演じている人間が生きてきよるんです。これは急にスタッフに言っても無理やな、と思ったら、自分で小道具を用意して持っていくこともあります」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか。
※週刊ポスト2013年5月31日号