「王様のブランチ」に書籍コーナーのコメンテーターとして出演していたとき、司会をつとめていたタレントの優香は「優香が泣くと10万部」と言われるほど、読書家だった。彼女と本との関わりについて、松田氏が振り返った。
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朝日新聞の「be Extra BOOKS」で、その年の話題の本を紹介する役割を2004年から2010年まで続けた。本好きの女優、タレントとの対話というスタイルで、杏さん、眞鍋かをりさん、加藤あいさんなどがお相手をつとめてくれた。2005年は優香さんだった。
日頃は、ゆっくり話をすることができないので、この機会にと思って、「子どもの時から本が好きだったの?」と尋ねてみた。すると、「この世界(芸能界)に入るまでは、本ってほとんど読んでなかった」という意外なこたえ。「どういうきっかけで読むようになったの?」と聞くと、「トーク番組に出ていると、しっかり自分の言葉でしゃべっている人がいるんです。そういう人たちは、どうやら本を読んでいるらしいと気がついたんです」
タレント周辺にいるスタイリストやメイクの人には、かなりの読書家がいるので、彼らにすすめられる本を読んでいたという。そして、「王様のブランチ」に出るようになると、ぼくのコーナーがあった。そこで取り上げた本のうち興味が持てそうなものがあれば、読むことにしたという。
こんな身近に、ぼくのコーナーを活用してくれている人がいたとは。ぼくの感激もひとしおだった。そして、意欲的に読んでいけば、短時間に、これだけ立派なコメントを語れるようになることがわかった。
ぼくが「王様のブランチ」で取り上げた本の中で、一番の反響があったのは重松清さんの『その日のまえに』。
常々、「泣いた(涙)」と「ベスト1」という言葉は視聴者に届きやすいと感じていたので、この本を「涙!涙!!涙!!! 今年読んだ最も感動的な小説だ。ぼくはベスト1に決めました!」と紹介した。ぼくとしては、切り札を切りまくったつもりだったが、それに「優香さんの涙」というとびきりの切り札も加わったのだ。
「松田さんが泣いたという話を聞いて、『すごいいいよー』って言われて。でも、そう言われると、期待しちゃうし、構えちゃうんですが、号泣しました。本当に素直に、こんなに泣くんだって、自分にびっくりするくらいでした」
この日、放送直後から爆発的に売れ、三時間ぐらいで、放送したエリアの書店の店頭から本が消えてしまったという。これ以後も、優香さんがコメントした本はよく売れるようになり、評論家の大森望さんが「優香が泣くと十万部」と論評するまでになった。
●松田哲夫(まつだ・てつお)/編集者(元筑摩書房専務取締役)。書評家。1947年東京生まれ。東京都立大学中退。1970年、筑摩書房に入社し、400冊以上の書籍を編集する。浅田彰『逃走論』、赤瀬川源平『老人力』などの話題作を編集。1996年からTBS系テレビ『王様のブランチ』・書籍コーナーのコメンテーターを12年半務めた。著書に『編集狂時代』『印刷に恋して』『「王様のブランチ」のブックガイド200』など。
※週刊ポスト2013年5月31日号