今後60歳を迎える人たちは、それより上の世代と比べ、生活設計が大きく変わってくる。社会保険労務士の野田真史氏が「65歳定年時代」に老後の生活をより豊かにするノウハウを解説する。
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サラリーマンが60歳以降の生活を考える上で一番重要なのは、当たり前のことだが、「自分の会社の制度がどうなっているか」を知ることだ。
大企業では再雇用のルールが整備されつつあるが、私が普段話を聞く中小企業の経営者は制度が始まったことを知らない人さえいる。今後少しずつ浸透していくだろうが、多くの企業で「60歳以降は大きく賃金を減らされる」ことは間違いない。
生活を守るためには正しい知識で“武装”するしかない。では、60歳以降の生活費はどれくらい必要なのか。
総務省の家計調査(2012年)によると、「世帯主が60歳以上の無職世帯」の消費支出は月に平均約24万2000円、「60歳以上の勤労者世帯」では約30万6000円となっている。持ち家率が約9割となっているから、家賃を含まずにこの支出が必要ということは結構高い。
医療費や教養娯楽費、交際費が支出を押し上げている。健康で豊かな老後を送るには必要な出費だ。
60歳から給料が下がれば当然苦しくなるが、さまざまな方法で生活費を補填できる。ぜひ活用していただきたいのが「高年齢雇用継続給付制度」だ。
勤務年数(雇用保険の被保険者期間)が5年以上あり、60歳以降の給料が60歳時点の75%未満に減った場合、最大で給料の15%(※注1)が補填される。
例えば、60歳時点で40万円だったサラリーマンの月給が60歳以降24万円に下がった場合、15%の3万6000円が雇用保険から支給される。
受給するためにはハローワークでの申請が必要で、通常会社側が手続きするが、この制度は会社の人事担当者でも知らないケースが多いので要注意だ。
【※注1】60歳時点の給料から61%以下に下がった人は60歳以降の給料に15%上乗せ、62%の人は同13.7%、63%の人は同12.45%……と段階的に上乗せ率が減り、75%以上の場合は0%となる。
※SAPIO2013年6月号