ファンがその姿を球場で見かけることはないが、プロ野球チームには多くの裏方がおり、彼らがチームを陰から支えている。用具係もその内のひとり。彼らは、言葉から想像できる仕事だけでなく、実に多岐にわたる業務に従事している。その要職を25年以上も勤め上げている「伝説の用具係」がいる。ソフトバンクの金岡信男氏(56)だ。
1981年に打撃投手として南海に入団、その後用具係に転身。球団はダイエー、ソフトバンクと名を変えたが、ずっと仕事を続けてきた。選手の信頼は厚く、時には練習にも加わる。特に、昨年引退した小久保裕紀氏のトスバッティングの相手として、よく知られている。金岡氏が過去を振り返りつつ語った。
「昔は雨が降るとボールが重くなるから、投げるときに負担にならないよう、ボールの箱に大量の乾燥剤を入れていました。今はドームだから大丈夫ですけどね。そのドーム、できた直後は人工芝も綺麗でボールも長く持っていたから、6試合くらいで交換していました。ただ、最近は人工芝に砂が入って、傷が付くのが早くなったように思います。
昔はとにかく手作りの野球だったんです。今は立派な打撃ケージがありますが、昔はポールを立ててネットを張って作っていました。特にキャンプはすべて手作りでやって、終わったら更地にして帰る。ブルペンも、運動場に黒土を持ってきて作っていましたからね」
金岡氏は用具係にとって、1年で最も忙しいのがキャンプだと語る。キャンプはいわば、チームが丸ごと引っ越すようなもの。球場で使う打撃ケージ以外はすべて持っていく。例えば、沖縄でキャンプを張る球団は、使用球800ダース(9600球)や打撃マシン8~10台など、16トン分のチーム用具一式をコンテナで輸送。ほかに航空便で選手の荷物16トン分を空輸する。
「当然、練習するために来ているわけですから、規模も大きいんですよ。使用するマシンや使うボールも多いので、不足しないよう特に注意がいるし、マシンの故障にも対応しなくちゃいけません。こうした作業はアルバイトやグラウンドキーパーにも手伝ってもらいますが、キャンプではバイトは毎年新顔になるので、毎回すべてを指示しないといけないから気を遣いますね」
※週刊ポスト2013年5月31日号